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「日本人にもおいしいと認めてもらえるケーキを作りたい」。 ベトナムで、こだわりのケーキを手頃な値段で製造・販売する洋菓子店「ポエム Poeme」。そのオーナーである鈴木哲弥さんが、日越の合弁企業であるケーキチェーンを軌道に乗せた後に掲げた目標は、自分の店でベトナム人だけでなく、味に厳しい在住日本人の舌をも満足させるケーキを作ることだった。 「一番大変なのは、美味しいケーキをいかに原価を抑えて作るか。そして、品質の安定した材料の調達が困難なベトナムで、品質の違う材料を使っていかに同じ味を作り出すか、ということなんです」。 味を追求すればどうしても良質な原料が必要となり、原価が上がってしまう。しかし、日本ではそれが500円で売れるとしても、ベトナムでその値段では客がつかない。また、ベトナムで手に入る材料は、時期によって同じものでも品質が全く違う。そのため、材料をそのまま使うと、味の違うケーキが出来上がってしまい、舌が敏感な日本人客はすぐに味の変化に気づくのだ。そこで鈴木さんは常にレシピを工夫し、中には原価割れする商品も置きつつも、品質が異なる材料からでも安定した味のケーキを作り出さすことに全力を尽くしているという。 「もちろんそうした努力は日本人客のためだけではありません。例えばベトナム人客が最初にポエムを訪れるのは、前の会社の評判と、今のお店が日本人や韓国人などの外国人に人気だというステータスから。でも、ポエムのケーキはベトナム人が食べ慣れたケーキとは味が違う。文句を言ってくる人もいる。決して『美味しい』とはならないんです。ベトナム人は新しいものを試すのは好きですが、違う味を受け入れるのには時間がかかるんですよ」。 以前は約300人もの社員を抱える会社を切り盛りしていた鈴木さん。これまでにも様々な場面で文化の違いを感じてきたという。 そうした感覚の違いを乗り越えるために何が必要か、との問いに鈴木さんは「時間。最善を尽くしてひたすら待つこと」と答えてくれた。彼は現在、その時間を見越してポエムの経営計画を立てている。創業から2年、徐々にではあるが、ポエムのケーキがベトナム人の間でも、他のお店とは違う「美味しいケーキ」として浸透してきたという。しかもステータスだけでなく、味を求めて「あのケーキありますか?」と事前に電話を掛けてくるようになったほどだ。 「店を増やしてほしいとの声もありますが、少ない店舗でこだわり続けて、遠くからでもお客様が来てくれるようなお店にしたいんです。そして出来たらお店のスペースをもう少し広くしてカフェを増設したり、ケーキの種類も増やしていければいいですね」。 たったひとつのケーキからも、ベトナムと日本の違いをその身で感じてきた鈴木さん。そんな彼の向こうから、今日も甘い香りがほんのりと漂ってきていた。 (2007年6月号/2007年6月22日 金曜日 11:02 JST更新) |
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