久保園栄蔵さん
(漆製品・刺繍画専門店「Sun Flower」アドバイザー)
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漆絵・刺繍画を通じ、
ベトナム文化の可能性を広げたい
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プロフィール
久保園栄蔵 くぼぞのえいぞう
1932年、鹿児島県生まれ。1992年に日系メーカーの駐在員として来越、ベトナム生活の中でベトナムの漆画や刺繍画に惹かれ始める。1997年の退社後、本格的に職人の育成、作品の製作にとりかかり、漆画・刺繍画販売店「サンフラワー Sun Flower」をオープン。
E-mail:sunflowershop@hcm.vnn.vn |
ベトナムを代表する伝統工芸品として名高い「漆」、「刺繍」製品。その美しさに心底ほれ込み、ベトナム文化の新たな可能性を探る人がいる。それが久保園栄蔵さんだ。
彼が営む「サンフラワー」はベトナムの漆製品、刺繍画の専門店。ベトナムそして日本の伝統技術を活かした肖像画などのオリジナル作品のほか、日本画や西洋絵画の名作を描いた漆絵や刺繍画の制作、販売を行っている。
「ベトナムの漆を日本に紹介してみないかと、ベトナム人の友人に勧められたのがきっかけなんです。漆を用いたランプスタンドを作る会社があって、その製品を見た時に、これほどの技術があるのなら、伝統的な日本の漆絵も作れるのではないか、そう思ったんです」。
自らも絵を描き、幼い頃から絵画に親しんできたという久保園さん。漆への関心も深く、日本の漆製品の本場、北陸にある輪島や若狭の工房を訪ねたこともあったという。そこで、その趣味が高じ、ベトナムの漆絵の世界へと徐々にはまっていった。
「まずは職人の育成からはじめました。知人・友人からの紹介を頼りに様々な工房を訪ね歩き、『これは』という人を探しました。しかし、いくら腕が立っても単に模写するだけでは良いものはできない。後に製品に反りが出てきたり、品質が安定していなかったりと、最初は問題も数多くありました。また、基本材料の品質や単なる技術だけでなく、原画が描かれた背景や作者の心情を理解した上で描かなければいけない。それを分かってもらうのが、一番の苦労でした」。
文化も風習も全く違う国の絵を、描いた人の気持ちを理解した上で描いてもらう。それは想像しただけでも大変な作業といえる。しかし、そうした努力が実ってか、現在彼が委託する工房は、漆、刺繍ともに腕利きの職人ばかりだ。
「ベトナム北部に代々150年続く刺繍の家元があり、知人の紹介から7代目であるクォック・スー(Quoc Su)さんと出会ったんです。彼は数々の賞を受け、ベトナムでは人間国宝級の腕前とされる方。刺繍画は、その彼と1枚毎に綿密な打ち合わせをして、製作しています」。
ベトナムでは現在、土産として刺繍画も人気が高い。しかし、彼の工房の作品は約400色にも及ぶ色糸を使い、その緻密さは他と一線を画したものばかり。7時間ほどの作業で約4センチ四方しか縫えず、1枚の画を仕上げるのに、最低でも2ヶ月はかかるという。
「漆絵も刺繍画も、作るならば質の良いものだけ。その為に徹底した品質管理を行っています。確かに職人たちにしてみれば厳しいかもしれませんが、それも彼らの技術を信頼しているからこそ。ベトナムといえば料理や雑貨、そして戦争といったイメージが一般的ですが、魅力は他にもたくさんあります。そこで私は漆製品や刺繍画を通して、他の国の人々にベトナムの新たな魅力に気づいてもらえれば、と思っているんです」。
久保園さんと職人たちの共同作品には、日々の暮らしに癒しを添えてくれると、各国の首相や官僚をはじめ、ベトナム独立の雄、ヴォー・グエン・ザップ(Vo Nguyen Giap)将軍など、錚々たる顔ぶれのファンも多い。ベトナムの伝統工芸に魅了され、長い年月をかけ培ってきた職人たちとの信頼関係。それが今、1枚の美しい絵画となって、花開こうとしているのだ。
(2007年5月号/2007年5月24日 木曜日 10:22 JST更新) |