西村 昌也さん(考古学者)
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ベトナムがアジアの
考古学先進国になるのを夢見て。 |
プロフィール
にしむら まさなり。1965年、山口県下関市生まれ。東京大学文学部博士課程中退。旧石器時代から20世紀までの東南アジア考古学研究を専門とし、現在ベトナム考古学院研究員。「NPO法人東南アジア埋蔵文化財保護基金」代表。 |
遥かな時代に想いを馳せ、土の中に眠る遺物や遺跡から、過去の人々の生活や文化を探る「考古学」。この学問をベトナムで実践する日本人考古学者がいる。それが西村昌也さん。近年注目が高まるハノイのタンロン遺跡研究にも携わり、2004年に小泉首相がこの遺跡を訪れた際、案内役を務めた人物だ。
彼はこれまでNGOとして、同じく考古学者である妻の西野範子さんと共に、ベトナムに眠る文化財や遺跡の保護活動を行ってきた。そして2004年の8月、市民レベルの文化財保護活動を更に推し進めようと「NPO法人東南アジア埋蔵文化財基金」を立ち上げた。
「バッチャンの南隣りにあるキムラン村の古老たちから『古い陶磁器の破片がたくさん出てくるので調査して欲しい』との依頼を受けて、これまで2度発掘調査を行いました。結果、その村は13〜14世紀に、日本で安南焼きとして有名な高級陶磁器を生産していたことが立証されました。また、嬉しいことに、村のおばあさんたちがボランティアとして調査に協力してくれたんです。しかも発掘した遺物を展示し、村の歴史からアジアの陶磁器の歴史までを広く紹介する歴史・陶磁器博物館を建てようと思っていて、費用は約3万ドル。2万ドルは私たちが集める予定ですが、1万ドルを村側が提供してくれることになったんです。」
東南アジア埋蔵文化財基金は、バクニン省で1000年前の窯址(ようし)を移設展示したベトナム初の博物館を完成させた実績を持っている。その総工費は約180万円。在ベトナム企業や日本の有志からの寄付を募ったという。
「ただ、NPOだからといって、何でも保護するというわけではありません。キムランもバクニンも、地元がそれなりの労働力やお金を出すという、それだけの覚悟があるので引き受けました。単なるおんぶにだっこの支援活動では長続きしないし、彼らの能力を高めていくことも出来ないですから。」
そうした思いから彼は現在、遺跡の保存活動と共に、ベトナム人研究者の育成にも力を入れている。
「若い人には考古学を身につけると同時に、私のような文化財保護活動への理解も深めてもらいたい。日本が100とすれば、ベトナムはまだ10さえ届かない段階ですが、能力はあるのです。ベトナムは東南アジアの中でも歴史や考古学に興味を持つ人が多い国で、どちらかと言うと古い物に関する認識は、日本や中国、韓国に近い。だから、どこかの発掘現場で最初から最後まで教え込むスクールを定期的に開こうと思っています。新しい世代を育ててベトナム考古学のフィールド作りをする。実はそれもNPO設立の目的の一つなんです。」
考古学は気の遠くなるような肉体的、精神的、知的作業の集積から成り立つ、地味で根気の要る学問。その道を突き進む西村さんだけに、ゆっくりかもしれないが、きっとベトナムの考古学界もまた、変えていくに違いない。
(2006年1月号/2006年1月11日 水曜日 8:33更新) |