HIRO SANADAさん(ミュージックパフォーマー)
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ベトナムだからこそ、
自分の音楽を確立できた。 |
プロフィール
本名、さなだひろし 1966年、石川県生まれ。中学時代にギターに目覚め、以降、バンド「エクトプラズム」での活動の他、企業への楽曲提供や関連イベントへの参画等、幅広い音楽活動を展開する。現在はベトナムで音楽パフォーマーとして活躍中。2004年春には、音楽パフォーマンス集団「極東慰安唱歌団(http://blog.livedoor.jp/mikad/)」を結成。次回ライブは6月上旬開催予定。 |
「Carmen Bar、Wild Horse、BopにYoko。町にあるほとんどのライブハウスのステージにあがりました。」
天井へ向け伸びるマイクスタンド、床に這う無数のシールド。その傍でギターを手に、美しい音色を奏でるのは、ホーチミン市に住むミュージックパフォーマー、HIRO SANADAさん。
「店に足を運ぶうちに、自分でも演奏がしたくなって。結構簡単に演奏させてくれますよ。今ではバンドマンとも仲良くなって、店に行くと逆にステージに呼ばれることもあります。」
ギタリストと一口に言っても、得意なジャンルは人それぞれ。しかし、ブルース、ジャズ、ロックにはじまり、歌謡曲から演歌まで、HIROさんのレパートリーは幅広い。実は普段の彼はアパレル系企業に勤める駐在員。しかし、足しげく様々なライブハウスに通っては、国籍問わず、得意のギターで観客を沸かせている。
「音楽は、僕にとって異国の人々とコミュニケーションを取る大事なすべ。そう考えると、音楽をしていて本当に良かったと思っています。」
実はベトナムへ来る前に、彼はインドへも赴任している。そこはホーチミン市よりも、はるかに日本人のいない場所。しかし、そこでも音楽が彼の生活を潤してくれたという。そして、それは今のベトナムも同じ。
「言葉が分からなくても、音楽なら分かりあえる。少し陳腐な言葉だけど、海外にいる今だからこそ、そのことを実感します。しかもここでは気軽にプロのミュージシャンと知り合うことができる。彼らとセッションを繰り返すことで、僕の音楽も確実に磨かれました。」
もちろん彼の興味はベトナムの音楽へも向けられた。
渡越以来、有名歌手のミー・タムやカム・リーなど、町中で開かれるステージへ何度も通い、自然と広がる交友から、遂にはホーチミン市最大級のライブハウス「M&Toi」で、ミー・タムとのセッションを行ったこともあるという。今では有名歌手の知り合いも増え、共に食事を楽しむこともしばしば。若手ベトナム人歌手がセッションの依頼に訪ねてきたり、そんな彼らに日本語の歌を手ほどきすることもあるという。
そこで、そんな彼の目に、ベトナムの音楽がどのように映っているのか尋ねてみた。
「洗練されてはいませんが、伝統楽器にデジタルを融合させた、新しいアジアンミュージックがベトナムから出てきています。まだ音楽業界の土壌自体が発展途上のこの国ですが、だからこそ僕も刺激を受け、自分の音楽を極められた。だからベトナムの音楽に、僕は期待しています。音楽そのものが変わろうとしているこの時期に、ベトナムと共存できたことを嬉しく思っていますから。」
言葉を越えて語る音。ベトナムで培われた彼の指先は、きっとその美しい調べを、これからも紡ぎ続けてくれるに違いない。
(2005年5月号/2005年5月4日 水曜日 10:07JST更新) |