宮崎茂穂さん(蝶採集家)
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ここは新たな発見に溢れる国。
目指すはベトナムの蝶図鑑。 |
プロフィール
みやざきしげほ 1943年東京生まれ。仕事のかたわら、幼い頃からの趣味である蝶の採集に情熱を注ぎ続ける。フィリピン、台湾、中国と、アジア各国に駐在、その間にも各地で蝶の採集、生態調査を独自に展開する。これまでにベトナムで発見した新種1種、新亜種1種。フィリピン駐在中に発見した新種1種、台湾で新亜種1種。 |
「マイナーな世界なんですけどね。私はほら、のめりこんだクチですから。」
ホーチミン市中心部のとある一室。一羽一羽丁寧にパラフィン紙に包まれた蝶たちを、暖かな目で見つめながら、彼は自分をそう表現する。ここは食品輸出業を営む『八ちゃん堂ベトナム』副社長、宮崎茂穂さんの自宅。部屋に並ぶ木箱の中では、彼が長年愛して止まない無数の蝶たちが、誇らしげにその華やかな羽を広げていた。
「だいたい月に2回くらいですね。週末バオロック周辺の山に入って、蝶を探すんです。時にはバイクの後ろに乗って、街から離れたところへも行きますよ。リュックを背負って山を登ったり川を渡ったりしながら、網を振っているんです。」
実は日本は世界でも指折りの蝶の学術研究が盛んな国。一般的とまではいえないものの、愛好家も多く、各種蝶に関する知識と経験はトップレベル。一方、東南アジアは南米と並び、原生林が残る世界でも有数の蝶の宝庫。フィリピンやラオス、インドネシアと同じく、ベトナムにもまた、様々な蝶が生息しているという。
「長年製鉄会社に勤めていましたが、定年間近で今の会社に転職したんですよ。もう少し働きたいという理由もあったのですが、何より蝶のいる所に住みたかった。そこで、ベトナムで働ける会社へ移ったんです。」
そして2002年の7月、彼は初めてベトナムの地を踏むこととなる。以来、仕事の合間を見ては足しげく地方を巡り、ベトナムの蝶の採集と調査を行ってきた。その甲斐あって、渡越してまもなく、彼はバオロック近郊の山で、貴重な蝶を発見する。
「ホワイトヘッディイナズマという種の新亜種で、私の名前から、学名はユータリア・ホワイト・ヘッディ・ミヤザキイ。同じ頃にステラータ・ヒメイナズマチョウという新種も発見しました。他にもハノイ在住のベトナム人蝶研究家と3回ほど、サパなどへも行きました。」
こういとも簡単に話す宮崎さんだが、新種を発見するには当然、蝶を見分ける豊富な知識が必要とされる。つまり、ベトナム各地へ飛ぶだけでなく、長年培ってきた彼の蝶への熱意がその結果をもたらしたのだ。
「今、日本にいる友人たちと作ったグループで、ベトナムの蝶を調べています。これまで私が自分で採集した蝶は、南部だけで約400種。ベトナムはまだ蝶の研究が詳しく行われていないので確証はできませんが、北部を合わせると1200種くらいになるのではと考えています。日本にいると出会うのは既に知っているものばかり。でも、ここではまだまだ知らないことが多い。新しい驚きにいつも出会えるんです。」
その新たな発見に彩られた宮崎さんの研究成果は、今年の後半をめどに、ひとまず日本鱗翅(りんし)学会の機関誌に発表する予定だという。
(2005年4月号/2005年4月12日 火曜日 10:18更新) |