吉澤岳史さん(INDIGO FACTORY)
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出会いの場所サパ。
原点に戻り、
ここで藍染め文化を残したい。 |
プロフィール
よしざわたけし 1965年山梨生まれ、神奈川育ち。クラフトショップ「インディゴファクトリー」オーナー兼デザイナー。横浜中華街の輸入民芸品ショップ「チャイハネ」を退職後、ベトナムへ移住。輸出業を行う傍ら、藍染めのオリジナル商品を扱うクラフトショップをハノイにオープン。現在は拠点を移し、少数民族が集まる町サパにお店2軒を構える。 |
『藍染めを深く染めることで、黒くなった衣装をまとった黒モン族』。これは日本在住当時、民芸品にまつわる仕事をしていた吉澤さんの興味を引き、彼をベトナムへと導いた、とある本の1文だ。そして、6年後の2004年。彼は黒モン族をはじめ、多くの少数民族が集まるベトナム北部山間部の街サパで、日本人初の居住者となった。
「藍 (=インディゴ) の葉をふんだんに使い、真っ黒に染められた布。染め方は沈殿法と呼ばれる昔ながらの製法で、化学染料は一切使いません。しかも、ここの布は決して色落ちしないんですよ」。
吉澤さんが、サパをはじめて訪れたのは33歳の時。サパ周辺に住む少数民族の伝統工芸である藍染めの質の良さに、とても驚かされたという。そして、彼はその旅で生涯のパートナーとも出会う。
「その時を案内してくれた、1つの質問をすると10の答えが返って来るような素晴らしいガイド。それが今の妻なんです。あの旅では彼女の豊富な知識に驚くともに、本当に助けられました」。
彼の奥さんであるタイン(Thanh)さんは、少数民族「花モン族」の血を引く、生粋のサパ育ち。少数民族についての造詣も深く、研究者の間でも有名な人物だ。そして、この時を境に、以来毎年2、3回、吉澤さんはサパへ通うようになる。
しかし、幾度となく訪れるにつれ、貴重な少数民族の文化が残る場所でありながら、旅行者に受けのよい派手な他民族の衣装をまとったり、工芸品を売ったりする、そんな人々の姿も彼の目につき始めた。そこで、吉澤さんは「インディゴファクトリー」をハノイにオープンさせる。
「藍染めの糸や布は、少数民族の人達から直接仕入れています。商売をしていく中で、結果的に彼らの生活や文化を守れるのではと思ったんです。でも、藍染め糸や刺繍のような伝統技術を使ってできる以外の仕事は彼らには頼みません。その他の作業は私達。彼らが生活の中で持たない技術を要求しないのも大切だと思うんです」。
しかし、このような仕入れ方は当然コストがかさみ、商売上の苦労も多いという。
「安いベトナム製品を求める人が大半のハノイに比べ、少数民族の文化に興味のある人が訪れるサパでは、私の話に耳を傾けてくれる人も多い。それにサパは、私にとって一番心が落ち着く場所。よく考えると、私はベトナムが好きなわけではなく、サパが好きなんだと気がついたんです。だから『原点に帰ろう』とサパに店を移したんです」。
そんな努力が実ってか、今では彼の考えに共感してくれるお客も多い。
「ただ、文化を守るボランティア団体を作りたいのではありません。自分の力と責任でできる事として、藍文化を守りたいだけ。それにこれからはサパの住人。情報を発信したり、藍染めを簡単に理解できる工房も作っていこうと思っています」。
まだ数こそ多くはないが、そんな彼の店に並ぶ、サパの雄大な自然の中で育まれたハンディクラフト。「本当に大切なものは一体何か」。彼が出した問いへの答えが、それらには詰まっている。
(2005年3月号/2005年3月30日 水曜日 11:38更新) |