楊井裕民さん (オムニサイゴンホテル)
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パン屋もホテルも心は同じ
ベトナムはこれから始まるんです |
プロフィール
やないひろたみ 1951年大阪生まれ。オムニサイゴンホテルのオーナー。大学卒業後、パンの修行にドイツへと渡り、帰国後、実家の「エーワンベーカリー」に就職。台湾、香港を初めとする海外進出を次々に果たし、1990年に初めてのベトナム入り。以後、オムニサイゴンホテルを立ち上げ、現在は日本、香港、ベトナムなど、世界中を日々奔走中。 |
パン屋さんのホテル。「?」と思う人も多いだろうが、そんな疑問もなんのその。実際にベトナムでホテルを建ててしまったパン屋さんがいる。「単にホテル業に憧れていただけなんですよ。もちろん経験なんてありません。ずっとパン一筋ででしたからね。」と何事もなかったように話すのは、ホーチミン市にある5ツ星ホテル「オムニサイゴンホテル」のオーナー、楊井裕民さんだ。
彼の実家は大阪の「エーワンベーカリー」というパンメーカー。55年の長きに渡り、関西だけでなく、香港などの海外でも愛され続ける町のパン屋さんだ。大学卒業と同時に、本場の技を学ぼうとドイツのケルンへ渡った楊井さん。そして、4年間の滞在中にドイツの製パン国家試験に合格。なんとその街でアジア人初のマイスターの称号を得る。その後、日本に戻った彼は、その技術と経験を生かし、会社の海外進出に邁進した。
しかし、そうした経験があったとしても、パン業界からホテル業界への参入は無謀にも思えるところ。だが、そんな疑問も彼にかかればこうだ。「衣・食・住。気に入った服を着て、美味しいものを食べ、心地よい所に住む。全部つながっているんです。ただ服は何が良くて何が悪いのか全く分からないので『住』になっただけなんです」。
そして、憧れのホテルを作るべく、適した地域を探す彼の前に、ベトナムが現れてくる。
「ちょうどドイモイ政策が実施された後で、これからベトナムが面白いと直感したんですよ。でも生活のベースが香港だったので、毎月行ったり来たり。ビジネスの仕方も全然違って、午前に結んだ覚書が、午後には勝手に破棄されていたりもしました。でも人の運は良かったのかもしれません。パートナーはもちろん、秘書やドライバーなど、周りにいる人はみんな、10年以上の付き合いがある人ばかりなんですよ」。
陽気な性格が幸いしたのか、彼の周囲には信頼できる人たちが自然と集まり、取得が難しいホテルのライセンスも2年で獲得してしまう。そして1994年2月。初来越からたった4年という驚異のスピードで、ベトナム初のインターナショナルホテル、オムニサイゴンホテルはオープンを迎えた。「今年でちょうど10周年。SARSや鳥インフルエンザなど、大変なこともありましたが、やりがいは今も感じています。もともとサービス業が好きなんですよ。パン屋もホテルも、サービスの根本は同じですから。それに、ベトナムには可能性がまだ沢山ある。最近ニャチャンにサンライズ・ビーチ・リゾートというホテルをオープンさせたのですが、他にもプランはあります。今すぐタイと同じにとはいきませんが、決してベトナムは負けてないと思いますよ」。
そう自信をもって話す楊井さんに、ベトナムでパン屋業をしないのかと聞いてみた。「面白いと思いますよ。ただ、まだ少し早い。でも、時期がくればやるかもしれませんね。」根っからのパン好きなのか、そう言って、彼はほんわかどこか暖かい笑顔を見せた。
(2004年12月21日 火曜日 17:11更新) |