熊木秀夫さん(点字図書館)
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エスペラント語が縁でベトナムへ。
点字図書館開設に向けて
目下、奮闘中です |
プロフィール
くまきひでお。1929年横浜生まれ。初訪越は1971年。日雇い労働者として生計をたてながら、エスペラント語で書かれたベトナムの小説を日本語に翻訳するなど、日越の文化交流に貢献してきた。 |
ベトナム初の点字図書館を作るためにハノイに来た、さらにそのきっかけになったのがエスペラント語だったという。そんな興味深い経歴の持ち主は熊木秀夫さん、75歳。「10代でエスペラント語と出会い、1965年頃からは、ベトナムのエスペランティストと文通をしていたんです。」
転機となったのは2001年。
「ベトナムのエスペラント語学会から、『日本の視覚障害者用施設は非常にレベルが高いそうだが、ベトナムの視覚障害者にも援助をしてもらえないか』という依頼が来ました。その時、ある友人に『物を贈るだけの援助では意味がない。点字図書館を作ったらどうか』と言われたんです。」と言っても、図書館を作るなんて大きなプロジェクトを1人でやるには無理がある。そこで企画書を作ってJICAに提案。熊木さんの企画は採用され、2004年の1月から熊木さんはハノイで、点字図書館開設に向けて働くことになった。場所はハノイの「視覚障害者リハビリテーション&訓練センター」。その一室を作業場として使い、熊木さんもセンターの中に住み込みである。「図書館を作ろうにも、そもそもベトナムには点字の本が非常に少ない。だから最初にやったのは、点字を印刷する機械を買うことでした。」
次は紙。点字印刷に使う厚手の紙はベトナム国外から輸入しなければならない。しかも点字図書は紙を大量に必要とする。小型の辞書1冊を点字化すると、紙を2万枚も使うのだ。「ベトナムは湿度が高いでしょう。きちんと管理をしないと、紙が反ってしまうんですよ。だから保管には苦労しています。」
点字書籍を作る工程は長い。まずは、普通に印刷されている本を、点字にしやすいように書き換えるところから作業は始まる。これを読み上げて録音。それを目の見えない人が聞きながら点字として入力する。タイプができると、今度は目の見えるスタッフと見えないスタッフが二人三脚で校正をするのだ。1冊の本を点字化するだけで、何週間もかかる気の長い作業である。
スタッフは健常者3人と視覚障害者2人。彼らが4台のコンピュータと印刷機を使って、点字書籍の作成にあたっている。「教育は大切ですから、教科書から着手しました。ようやく、小学校1年生が1学期で使う教科書を点字化し終わったところです。ベトナム入りしてから半年経ちましたが、先は長いですねえ。」まだその計画は端緒についたばかりとは言え、熊木さんの頭の中は、将来に向けてのプランでいっぱいだ。「ベトナムで豊富に取れるバナナで作った紙を点字書籍に使えないかなど、いろいろ考えています。残りの人生をベトナムに捧げることができれば本望だって、私は思っているんですよ。」
(2004年7月30日 21:39更新) |