伊藤忍さん(料理研究家)
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一時のブームで終わらせたくない
ベトナム料理を定着させるのが私の夢
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プロフィール
いとうしのぶ:1972年、神奈川県生まれ。短大卒業後、クッキングスクールのアシスタントを経て、フードコーディネーターになり、広告、雑誌などの料理コーディネートに6年間携わる。2000年、ベトナム料理を習得するためにホーチミン市に移住。滞在中、ホーチミン市の人気スポット「La Fenetre Soleil」のカフェと料理教室の立ち上げをし、マネージャーとして2年間勤務。2003年11月、料理研究家として日本へ帰国。 |
伊藤忍さんが初めてベトナムを訪れたのは、今から7年前。まだベトナム料理が注目される以前のことだ。なぜハマッてしまったの?の問いに、彼女は「私『ご飯を食べる生活』が好きなんです。ご飯があって、スープがあって、しょっぱいおかずがあって、漬物がある。そして、ひとつのお皿からみんなで分け合って食べるスタイル。ベトナム料理って日本料理に似ていると思いません? なのに調味料が違うだけでこんなに違う料理が出来てしまう。しかもとっても美味しいでしょ!?」
ベトナム料理に興味を持った伊藤さんは、その後も料理を習いに、何度もベトナムに足を運んだ。「料理教室では、メジャーなベトナム料理はマスターできました。でも私が知りたいのは料理のレシピではなく、『ベトナム料理とはこういうものなんだ』というベトナム料理の方程式。料理教室には通訳がいたけれど、細かい部分まではうまく通じなかったりする。やっぱり間に人が入るのはもどかしいんですよね。それなら自分で勉強をするしかないと思って移住を決めたんです。」
伊藤さんが最も興味を持ったのは、ベトナムの家庭料理だった。家庭料理を習うには、ベトナム人の生活に入り込まなくては難しい。そこでまず語学をマスターすることに全力を注いだ。そしてある程度のベトナム語が身につくと、知り合いのベトナム人に付いて料理を教えてもらうようになった。その後、カフェのマネージャーとして働くようになっても、料理の探求は続いた。
伊藤さんがベトナムにいる間に、日本ではベトナムブームが巻き起こった。当然、料理も注目され、多くの人が勉強しに来ては、帰国して活躍した。そのことに焦りはないかと尋ねると「先に帰った人がベトナム料理を広めてくれるのは私にとっては励みです。今、日本にあるベトナム料理を一時のブームで終わらせてしまうのではなく、イタリア料理のように日本に定着させるのが私の夢なんですよ。」そして3年の滞在を経て、日本帰国を決意する。帰国前に、伊藤さんはベトナムのローカルフードを巡る旅に出た。ベトナム料理を習うには、ベトナム人の習慣を知っていなければうまくいかないと彼女。「ベトナム人は自分たちの食文化にものすごく自信を持っているんです。だから外国人がひょっこり現れて、作り方を教えて欲しいと言っても、彼らは自分たちの技術をそう簡単には教えてくれない。本当に知りたければ、彼らの生活に入り込むしかないんですよ。」
そして伊藤さんは、早朝から男たちと漁に出たり、釜元を訪れたり、あるときは売り子にもなった。生活に入り込めば、とても親切に教えてくれるのがベトナム人。ベトナム人は食について語るのが本当は大好きなんだそうだ。「今回旅に出て、さらにベトナム料理の奥の深さを知りました。この旅で完結させるつもりが、新たな課題ができてしまった感じです。私の『食探求』に終わりはナシですね。」
帰国してもその好奇心が活力になってくれればと、伊藤さんの今後の活躍を期待している。
(ベトナムスケッチ2003年12月号) |