塚原絵里子さん(日本ユネスコ協会連盟)
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作った寺子屋は2年で40軒
逆に、教えられることもたくさんありました |
プロフィール
つかはらえりこ。1976年、北海道札幌市生まれ。日本の大学卒業後、イギリスの大学院で国際開発学を学ぶ。社団法人日本ユネスコ協会連盟に就職し、2001年8月にベトナム派遣。識字率の向上を目指す世界寺子屋運動のプロジェクトコーディネーターとして、北部の山村を中心に活動している。 |
世界全体で見ると、今でも成人の5人に1人は文字が読めない。95%という、アジア諸国の中では香港と並んで高い識字率を誇るベトナムでも、山岳部に住んでいる少数民族の中には、ベトナム語がまったく分からない人もいる。そんな場所に入り込んでコミュニティ学習センターを作り、識字率の向上に取り組んでいるのが、日本ユネスコ協会連盟が行っている「世界寺子屋運動」だ。
これまでベトナムでは、多くの人がこの活動に関わっており、塚原絵里子さんもそのうちの1人。2001年8月からベトナム北西部の山村を中心に活動している。「苦労したことは、数えだすとキリがないですね。目的地の村が山深くて、車を降りてから、けもの道のような山道を半日以上歩いたこともありました。壊れている吊り橋を渡ったり、道に迷って森の中を1人でさまよったこともあります。」
村に着くと、村人達がご馳走してくれるのだが、「これが辛いこともあるんです」という。「ヘビの血を飲まなければならなかったり、ブタを目の前でさばいて出してくれたり。でも、歓迎したいという気持ちは嬉しいので断われないんです。朝から火がつくくらい強いお酒を勧められたこともあります。その時は、やむを得ず、飲んだふりをしてごまかしましたけど。」
一方、教えられることも多い。
「少数民族の人たちは、確かに物質的には恵まれませんが、文化的には豊かだし、楽しそうに暮らしていて悲壮感はないんですね。自分の価値観だけを基に『可哀想な人たち』という目で見るのは、間違いだと思います。何が豊かか幸せか、自分の生活している世界をかえりみる機会を与えてもらいました。」村の人々の懐に飛び込んで苦闘したこの2年間の成果は、完成した40の寺子屋。これらの施設で、子供から成人まで多くの人達が、ベトナム語の識字教育や生活向上プログラムを受けている。「文字が読み書きできないこと」は山岳地の農村では貧困の原因でもあり結果でもある。少数民族の中には独自の文字を持たない民族もいるが、今の社会において文字を手にするメリットは大きい。標準語とも言うべきベトナム語ができるようになると様々な情報が手に入る。それが技術や生活の向上に結びつき、子供に教育を受けさせる経済的余裕も、将来への希望も生まれてくるのだ。
「この2年間中心的に活動していたディエンビエンフーで3月、プロジェクトの完了を祝う式があったんですね。その時、寺子屋で1年半勉強したベトナム語を使って、モン族の少女が作文を読んでくれたんです。偉い人たちの並ぶ前だったので、緊張して震えていましたけど、『将来は村のリーダーになり、みんなの生活を良くしたい』って。私自身、顔なじみの子だったので、喜びもひとしおでした。」塚原さんの山道を歩き回る日々は、まだまだ続きそうだ。
(ベトナムスケッチ2003年10月号) |