中田智子さん(日本語幼児教室"ともだち")
教室を彩る色とりどりの七夕飾りが、日本の7月を思わせる。ここはベトナム初の日本語幼児教室「ともだち」。2001年1月、わずか2人の園児でスタートした教室も、現在は総園児数46人の3クラス体制。入室待ちの子供もいる人気ぶりだ。
「ここに通う園児の8割以上が日本人とベトナム人のハーフなんですよ。おじいちゃんやおばあちゃん、お手伝いさんと共にベトナム人家庭で育ったので、入園当初はほとんどの子供が日本語を話せません。でもこの時期の子供は言葉の習得が早いので、コミュニケーションにおいてはあまり問題はないんです。むしろここでは、さまざまな遊びを通じて日本の伝統や文化、しつけなどを教えることに力を入れています」。
「ともだち」の立ち上げから関わってきた中田智子先生に、保育現場で感じたことを尋ねてみた。「園児のほとんどがハーフといっても、育ったのはベトナムです。どちらがいいか悪いかは別として、日本の子供たちとの違いは多少ならずあります。例えばベトナムで育った子はオムツが取れるのが日本の子に比べてかなり早い。けれども食事に関しては、年齢の高い園児でも自分で食べられない子供が多いんです。家庭環境の違いでしょうか。ベトナムでは核家族はごく稀です。人手が多い分、子供に手が掛けられる。だから大きくなっても大人が子供に食べさせてあげる習慣が抜けないんでしょうね」。実際、保育現場で一番気を使うのが食事の時間だそう。
同園では3人の日本人の先生を中心にして、日本語が話せるベトナム人スタッフがサポート役を務めている。ベトナム人スタッフに日本の伝統やしつけを教えるのも中田先生の役割だ。しかし逆にベトナム人スタッフに教えられることも多いと言う。「例えば日本では『あの人って馬づらね』など人を動物に喩えることがありますよね。日本ではジョークで流せるけれど、ベトナムでは動物は食べる物としてとらえているので、人を動物に喩えるのは絶対タブーなんです。園では日本の伝統やしつけを教えることがメインですが、ベトナムに暮らしていく上で知っておいた方がいいことは子供たちにも教えていくよう心掛けています」。
私生活ではベトナム人と結婚し、一児の母でもある中田先生。「娘もハーフですから、今後、どのような環境で学ばせるべきか悩みますね。いつか日本に帰るかもしれないし、先のことはまだ分かりません。でも最後はやっぱりベトナムに戻って来る気がしますね。そして日本にいてもベトナムにいても、私は保母という職業をずっと続けると思いますよ。子供たちからたくさんのエネルギーをもらえるこの仕事が大好きなんです」。
(ベトナムスケッチ2003年8月号) |