浅野哲美さん(ACTMANG)
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木を植えて結果が出るのは何年も先
そんなゆったりとしたペースが
私には合っているんですよ |
プロフィール
あさのてつみ:1963年岐阜県岐阜市生まれ。学生時代に読んだ本に影響され、マングローブの植林活動に携わるべく大学を中退。その後再びマングローブの研究の為に大学に編入。卒業後NGO「ACTMANG」に入り、93年に初渡越。現在はベトナム人の妻と娘との3人暮らし。
マングローブ植林行動計画
(Action for Mangrove Reforestation)
住所:東京都中野区本町3-29-15-1104 TEL:03-3373-9772 |
「よく『NGOって大変ですね、頑張ってください』と言われるんですけど、実は結構困るんです。『世のため人のため』というのではなくて、木を植えながら生活したいという思いから始めたことで、自分が楽しんでいるだけなんです。」
屈託のない笑顔でそう語る浅野哲美さんは、マングローブの植林活動を専門とするNGO「ACTMANG(アクトマン)」のスタッフ。ユネスコから生物圏保護地域に指定されたホーチミン南部のカンザー(Can Gio)地域をはじめ、貴重な生態系を育むマングローブの森がベトナムには無数にある。しかし、そのほとんどは実は戦争や環境汚染等で破壊され、政府と各国NGOの植林活動によりようやく回復したものなのだ。そして、そうした植林活動を、浅野さんは10年前から第一線で行ってきた。「昔は海岸地域は外国人が簡単に出入りできる所ではなくて、警察に止められたりもしました。でも、ベトナム人は生活の中でマングローブの大切さを分かっていますから、今から思うと特別な苦労はなかったですね。それに、一応資金援助とか技術指導のような形をとっているんですが、現地の植生の詳細とか、実際は教えられることの方が多いんですよ。今でもそうです。」
いざ訪れるまでベトナムのことを何も知らなかったという浅野さん。当然かなりの苦労があったのかと思えば、そう軽やかに彼は言う。しかしそんな彼らの地道な活動が、保護地域指定のような、マングローブ林が重要であるという世界的認知を引き出す一つの要素になったのは事実だ。「問題は再生した森をどれくらい利用できるか、ですね。今後は日本人への環境教育というか、現地の生活を体験したりできる、単なるエコツアーよりももう少し学術的な要素を盛り込んだプログラムなども作っていきたいんです。」
そして今、彼は同時に次の目標として、ベトナム各地で実験的な植林活動を行っている。マングローブの無い土地に、彼の経験や他の国の例と照らし合わせて植林の可能性を探っているという。「難しいけど面白いですよ。北部の方は今は他の団体が活動しています。だから私としてはもっとフットワークを軽く、政府や他の大きな団体ができないところに手をつけていきたいんです。」しかし、それは同時に失敗する可能性の高い、誰もが手をつけない仕事、ということでもある。
「でも自分が植えた所が次に訪れた時に立派な森になっていたら、本当に感慨深いんです。仕事に納期もないし、『できる時にできることを』という感じなので、本当にゆっくりですけどね。よくベトナムのゆっくりとしたぺースに対して、日本人の間ではグチなどが出てきますが、仕事柄かそんなペースも私には合っています。ただ、今はベトナムに住んでいますが、今後は分かりません。マングローブの植林とベトナム、どちらを取るかと聞かれれば現時点ではマングローブ。植林職人というか、現場のある所へという感じですね。」
(ベトナムスケッチ2003年7月号) |