本名徹次さん(ベトナム国立交響楽団指揮者)
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アンサンブルはまだまだなのに、
何とも言えない魅力的な音を出すんですよ |
プロフィール
ほんなてつじ:1957年福島県生まれ。東京芸術大学在学中から指揮活動を開始。東京国際音楽コンクール、ブダペスト国際指揮者コンクールで最高位を受賞。名古屋フィルハーモニー交響楽団の客演常任指揮者、大阪シンフォニカー交響楽団常任指揮者などを歴任。 |
「指揮をしていて困ってしまうのは、オーケストラにとても大切なものであるアンサンブル意識が、信じられないくらい欠けていること。みんなゴーイングマイウェイなんです。ところが、それが理由なのか、このオケにしか出せない、何ともいえない魅力的な音を出すんですよ。」こう語るのはベトナム国立交響楽団(VNSO)のミュージック・アドヴァイザーである指揮者の本名徹次さん。VNSOは1952年に創立されたベトナムを代表するオーケストラ。本名さんは2001年の就任以降、年に4〜5回ベトナムを訪れ同交響楽団の指導・指揮を行っている。
多忙な本名さんが、クラシック音楽に関しては無名のベトナムに来るきっかけとなったのは、2000年10月、名古屋フィル(トヨタクラシックス2000)と行った、アジア8カ国への演奏旅行。「ハノイでのコンサート終了直後、楽屋にやって来たVNSOの首席チェリスト(当時)のンゴ・ホアン・クアンさんから、『VNSOを良いオーケストラにしたいので、力を貸してくれませんか』と頼まれたんですよ。私自身、その時訪れたアジアの町の中でも、ハノイには特に惹かれていたこともあって、二つ返事で引き受けました。」
しかし予想していたとはいえ、クラシック音楽を巡るベトナムの環境は、決して恵まれたものではなかった。「団員の多くはアルバイトもしながら生計を立てています。楽器も、日本のように個人で持てる人は少なく、国の支給品を使っているんですよ。」また、演奏会が開けるのはスポンサーが名乗りを上げてくれたときだけで、日本や欧米のオーケストラのように定期演奏会を開くことも、今はできていない。「当面の目標は、まずは年に6回の定期演奏会を開くこと。これができると、団員達も長期的な視野を持って音楽に取り組めるようになりますから、音楽のレベルアップにもつながります。」
世界的に権威のあるピアノコンクールであるショパンコンクールで、1980年にベトナム人ピアニスト、ダン・タイ・ソンが優勝し話題をさらったが、こういった国際的レベルの音楽家は、まだまだ例外的な存在だ。技術的なレベルから言うと、VNSOですら日本の優秀なアマチュアオケと変わらない程度。でも、本名さんはVNSOの実力を向上させて、数年中には日本公演を実現させたいという夢を持っている。「彼らを見ていて『いいな』って思うのは、間違おうが何しようが、本当に楽しそうに演奏していること。これは音楽の原点ですから。技術的レベルは高いのに、能面のような演奏するオケもある中、彼らは音楽にとって一番大切なものを、ちゃんと持っているんです。だから私も彼らの可能性にかけてみようと思っています。」
(ベトナムスケッチ2003年5月号) |