小林貞一郎さん(HCMC社会科学人文大学教員)
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日本語を教えるだけでなく
就職先探しも大切な仕事です |
プロフィール
こばやしていいちろう:1948年生まれ。中国人の夫人と9年前にホーチミン市へ。大学教員の仕事のかたわら、現地新聞の主要記事を日本語に訳して配信もしている。ホーチミン市旅行局発行の観光年鑑の日本語版翻訳も担当した。 |
◆最近、ベトナムでの日本語学習熱が高まっているそうですが、小林先生のところでは何人くらいの学生さんが勉強されているのですか。
東洋学部の日本語科、その夜間部、2年制の日本語専科など全部で4コースあり、合計1000人以上の学生がいます。日本語科は英語科についで人数の多い専攻なんですよ。
◆4年間勉強して、どれくらいのレベルになるのでしょう?
在学中に大体半分そこそこの学生が日本語検定3級(初級程度)に合格します。2級まで合格するのは数名ですね。残念ながら、スムースに話ができるというレベルには、なかなか達しないのが現状です。日本語は、やはり難しい言葉ですし。
◆9年前にベトナムに来られる前は、中国で日本語を教えておられたんですよね。中国と比べて、ベトナムの日本語レベルはいかがですか。
中国人学生のほうがレベルは高かったですね。中国人は漢字が分かるという点で、ベトナム人学生に比べはるかに有利だという理由もあるのですが、総体的に見て、中国の学生のほうが、ここの学生よりも勉強熱心でした。うちの学生たちは、宿題を出しても、なかなかきちんとやってきてくれません(苦笑)
◆日本ではよく「ベトナム人は勤勉」だと言われるのですけど。
そうとは言い切れないですね。これは皮肉なことに、ベトナムが豊かな国だからというのが背景にあると思うんですよ。北部や中部だとまた少し状況は違いますが、ここ南部では食べ物が豊かで、食べていくだけだったら、そんなにお金がなくても生活することができますよね。常夏の街だから、路上で寝ていても凍死するなんてことはありません。おまけに、大学を卒業したあと仕事がなくても、そんなに肩身の狭い思いをすることなく、家族や親戚の家で養ってもらうことができますし。そういう点で切迫感がないんでしょうね。もう1つ、日本人と接する機会が少ないことも理由に挙げられると思います。当地を訪れる日本人観光客は多いはずなのに、学生達が日本人に接する機会というのは、ほとんどないんですよ。
◆ところで、ベトナムでは「先生は尊敬される職業だけど、給料は安い」と言われますが。
1コマ教えて4万ドンとか5万ドン(350円前後)という世界ですからねえ、金銭面で言うと決して恵まれた仕事ではありません。学生達もそのことを知っていますから、学生と一緒に食事に行ったりすると、彼らが払ってくれるんですよ。
◆学生さんの卒業後の進路ですが、やはり日本語を生かした仕事につくのでしょうか。
それが悩みのタネで‥‥。私のところの卒業生でも就職には恵まれないのが実情です。昨年7月に卒業した学生のうち、日本語を使う仕事への就職率は半数以下でした。日本語ができるベトナム人に対する需要はあると思うので「頑張って勉強すれば良い仕事につける」となると、やる気も違ってくると思うんですよ。性格は良い子ばかりなので、彼らの日本語のレベルを上げるのと並行して、日本人と接する機会、仕事の機会を増やしてやりたいなと思っています。
(ベトナムスケッチ2003年2月号) |