| <ベトナム芸能界珍道中>愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
 第11話:売れないCD、路上の喧嘩、そして運命の出会い
「おまわりさん、こっちです」    誰かが警察を呼んだらしく、それに気づいたチンピラは、走って逃げていってしまった。 「大丈夫か?」  警察官が俺に駆け寄る。俺は、初めに殴られていた男性より血だらけになっていたようだ。  すぐに救急車で近くの病院に運ばれた。顔面打撲に両腕打撲、そして鼻骨骨折。鼻は見事にひん曲がり、目のまわりはマンガみたいに青タンだらけ。全治1ヶ月と言われた挙句、即入院する羽目になってしまった。助けに入っておきながら、逆にメタメタにやられてしまったのだ。  入院中、警察から何度か事情聴取を受けたが、犯人は見つからないらしい。更には、助けた男性もどこかに消えたという。  俺はベッドで天井を見上げ、ベトナムでのことをぼんやりと思い出していた。路上に寝ていた子供達や、障害をもちながら必死で物乞いをする戦争被害者。こうして自分が被害にあってみて、その人達の苦しみや辛さを、僅かながらも感じることが出来た。そして1つの答えにたどり着いた。  俺は、昔から困っている人達をみると放っておけない性分だ。そんな人達の為に出来ることを見つけ、それを自分の仕事につなげようと思い立ったのだ。そこで退院後すぐに、ベトナム業務専門会社「ラブ・ベトナム」を設立した。  イベントの企画・運営をはじめ、ベトナムの伝統楽器奏者を各地に派遣する傍ら、日本全国の老人ホームを訪れ、慰問演奏を行った。 自分が歌う機会は減ったものの、WADAのベトナム月琴の演奏がとても好評で、事業を開始したばかりだというのに、多くの依頼をいただいた。  イベントでは、パネルを並べてベトナムの枯葉剤被害の写真展を行い、集まった募金を現地の施設に届けたりもした。  そんな風にして「シクロ」の新たな道が少しずつ見えはじめてきた頃だった。俺達は支援活動で集まった募金を、再度ベトナムの施設へ届けに行っていた。そして、そこには運命的な出会いが待っていた。 「ニホンジンデスカ〜?」  訪れた施設の入り口で出迎えてくれたのは、あの「ベトちゃんドクちゃん」のドクさんだったのだ。 ←前のページ | 次のページ→ (2008年5月号 | 2008年5月19日 月曜日   10:33 JST更新) |