レヴァンシー(Le Van Si)通りの小学校を間借りしていたときは、いつも朝の登校時間になると、校門に木製のアタッシェケースを自転車の荷台に結わえてやってくるおじさんがいた。ケースを地面に置いてパカッと開けると、そこにはルーレットが回っていた。即席のルーレット賭場のご開帳である。客はもちろん、登校してくる小学生たちだ。地面にケースを置いてルーレットを回すと、安っぽい金紙に縁取られた矢印がカタカタと回転していく。その音も安っぽい。しかもインチキ臭いニオイがぷんぷん漂う。でもジャンクなものに魅せられてしまう子どもは、目を好奇心で溢れさせながらしゃがんでしまうのだ。「早く学校いけよ」と思っても無駄。そこへおじさんがこれまたインチキ臭い笑みを浮かべると、その笑顔に安心するのだろうか、最初は見ているだけの子どもがオズオズと金を賭けだす。賭け金は200ドン(約2円)とか500ドン(約5円)とか、そんなもんだったと思う。日本で学校の前でこんなことやっていたらすぐに先生が飛んでくるだろうし、だいたい博打に興味を示す小学生がいるとも思えない。
しかし読者の皆様もご存じの通り、賭け事好きがもはやDNAレベルで書き込まれているとしか思えないベトナム人の小学生は、乗るんである。乗って、しかもやっぱり、負けてしまうんである。賭けたルーレットの矢が外れた途端、子どもは「フンギャー」と泣き、さっきまで笑っていたはずのおじさんがすっと無表情になって子どもの手から、ボロボロの200ドン紙幣を「ふんっ」と奪い取っていった。私はこの地べたルーレット即席賭場はベトナム独自のものだと思っていたのだが、西原理恵子さんが古里・高知の想い出を書いた漫画でも出ていたので、日本でやっていた地域があるのだろう。