ただし、これらの多くは、農耕が出来ない地域や時代に、調理技術の未発達と絶対的なカロリー不足を補うために生まれた食事で、現在のように生産と流通が発達した社会においては、どうしても食べなければいけないものではないし、むしろ環境破壊で自然が失われつつある今となっては贅沢品といえる部類です。密林ツアーで遭難でもしない限りは、敢えて食用にする意味はなさそうだし、この手の食材は漢方医薬では滋養強壮に分類されることが多く、予算&カロリーオーバーも心配しなくてはなりません。
そもそも「ゲテモノ」なる言葉自体、自分たちの食文化にない料理を無知や偏見に もとづいて乱暴に分類したニュアンスが感じられます。外国人から見れば刺し身も納豆も人間の食うものではないそうですし・・・。加えて、度胸試しの感覚で「ゲテモノ」指数をより過激な方向に高めていくと、命にかかわります。その手の食材の販売者や調理者に、正しい衛生観念や寄生虫対策の知識があるとは限らないのです。私の友人がメコンデルタに出張に行ったときに、現地取引先の家族が「日本人ならSUSHIが好きだろう」と、あくまで親切のつもりでナマズの寿司や生焼けの豚肉の寿司を用意してくれていたことがあります(万一食べようものなら下痢じゃすみません)。食文化とは素材の選択や料理技術の進歩を含めて、それを生み出した風土や歴史とは無関係ではなく、うわっつらだけの物真似や奇をてらっただけの趣向は、非常に危険であるといわざるを得ません。
落語の名作に、食通気取りのニヤケた若旦那をだまして腐った豆腐を食べさせる「酢豆腐」という滑稽噺があります。現在の消費文化や情報社会は衣・食・住を問わず<他人と違ってしまうことへの不安感>、もしくはその裏返しの優越感を煽り立てて成り立っていると言えますが、ローマ貴族じゃあるまいし、珍しいものを食べた人間が偉いのであれば公園行ってハッパか砂でも食べていれば良いのです。無理して食べたくないもの食べる必要は一切ナシ!その努力は違うことに使っちゃってください。
【今月のまとめ】
どんなものを食べているか、言ってみたまえ。
君がどんな人間であるか、言い当てて見せよう。 BY ブリア・サヴァラン