私も貴女も、もちろんプロレスラーではありませんが、さまざまな人々の間で生きていく実社会の中で、特にベトナムという外国の地においては、闘いの場は仕事だけではありません。友人を作るということも、限られた当地の日本人社会においては<絶対数の少なさ(選べない)>と、<世間の狭さ(無責任な噂やデマ)>といった有刺鉄線をはりめぐらされた中でのデスマッチの様相を呈しているといっても過言ではありません。また、欧米人やベトナム人のコミュニティでは、結局我々は異邦人です。言葉の壁を乗り越えたとしても、異文化・異人種間の壁は生まれ変わらない限り無くなりません。
最終的には、腕力の代わりに貴女の人間力が試されます。おそらく何度も何度も、打ち倒され、傷つき、負け試合を経験するに違いありません。しかし、何度でも、その度に起き上がってください。そして、その中から自分に合ったスタイルを見つけていきましょう。この手の相談の生ぬるい回答例として、「性格を明るく変えて積極的に人に話し掛けましょう」などという無責任なものがありますが、それが出来るくらいならば最初から悩みはしないのです。持って生まれた<性格>は、よっぽどのことが無い限り、そうそう変わるものではありません。ただし<考え方>を変えることは出来ます。モノは言い様で、短所は長所に変わるのです。
たとえば、「引っ込み思案」であれば「慎重」に。「口下手」であれば「嘘をつかない。言葉に重みがある」に。「気が弱い」であれば「優しい」です。無理に自分のキャラクターを改造しようとすると、必ず破綻します。己自身の素材に磨きをかけてゆくことです。人間とは寂しく弱い生き物で、一人の力では大したことは出来ないのだと、私は思います。そのことに気付くきっかけは、自分自身の弱さやコンプレックスを受け入れた瞬間であったり、思いがけない人からのやさしさであったりで、それらを一つ一つ積み重ねることによって、貴女自身の人間がぐっと奥深く広がることでしょう。その時になってから、どうするか、もう一度考えてみて下さい。そこから見える風景は、きっと今よりも優しいでしょうから。
【今月のまとめ】
「汝の道を行け。そして、あとは人の語るに任せよ。」 BY カール・マルクス