「えっ！　この場所が…。見つけた店舗物件は…『鬼門』!?」

　はじめまして、29屋さん。いまさら手遅れなのかもしれませんが、実は今、人知を超えた悩みを抱えています。「いつかは自分の店を持つ」との夢を叶えようとベトナムで開業を志し、資金を貯めてようやく辿り着いた今の店。小さいながらも、なんとか軌道に乗り始めたところなのですが、お客さんから妙な話を聞いてしまいました。「（ぼそっと）この場所に入る店ってさぁ、次から次へと潰れてるんだよねぇ」。何でも、この物件に入るテナントはそれぞれ半年ももたずに開店→閉店の必殺コースをたどっており、日本人もベトナム人も「今度はどれぐらいもつのかな」と冷ややかに眺めているそうなのです。ジンクスとか占いとかは信じないタチなのですが、以来、売り上げの悪い日なんかは気になって眠れないことがあります。いったい、どうしたらいいものでしょうか？

PN：電気ウナギの夢（34歳：♂　ショップオーナー＠オープン4ヶ月目)

「迷信にも一分の理。何がしかのヒントは隠れているようです」

　「幸福な家庭は互いに似通っているが、不幸な家庭はどれもその不幸が違っている」と言ったのはトルストイですが、業種の如何を問わず、自営業に関してもこの格言は当てはまるようです。「繁盛している店の秘訣とは『サービス・広告・管理』を徹底して充実させた結果に他ならず、逆を言えば、そのどれかひとつでも崩れているのであれば長期間にわたる安定経営は望めない」。数多くのビジネス書の中で様々に表現を変えて語られていることは、要約するとコレ。「マジメに地道に『商い』をするところに、ゼニの花は咲くもんや」というわけですが、はたして「鬼門」とは、コツコツとした熱意をも打ち砕くほどの呪力を持っているものなのでしょうか？

　その昔、徳川家康が江戸の都市設計をするにあたり風水を取り入れたのは有名な話ですが、ここベトナムの人たちも中華文明圏の影響下にある民族の例に漏れず。家を建てたり店を開いたりするときには、入り口の方角やインテリアの配置に気を配り、少しでも縁起のいい方向に持っていこうとする風習があります。よって、貴男のお店が入居している物件のように、代々の入居者がことごとく敗れ去っているような場所については、何らかの悪因縁がとりついていると考える人も間違いなくあるようですし、あくまでも親切心から様々なアドバイスがなされることでしょう。しかし、だからといって運気の流れを変える目的で壁に大穴をあけたり、むりやり敷地内に池をつくってニシキゴイを飼ったりすればいいというものでもないので、オカルトな救済に頼るのは最後の手段として、占い師に余分なお金を払うのは少しお待ち下さい。

　 まず、その建物が貴男の商売のタネにふさわしい物件なのかどうか。前の入居者が残していった内装などを「やったぁ、安上がりぃ！」とばかりに廃物利用するのは危険です。飲食店には飲食店、雑貨屋には雑貨屋に「ふさわしい構造」というものが必ずや存在します。「モノさえよければ、ええんや！」という考え方もありますが、最高級のお寿司と大吟醸が紙皿と紙コップで出てきたら有難味が半減するように、買い物や外食に行くという行為は、お客様にとって「ささやかな非日常への旅路」とも言える冒険ロマン。ベトナム人経営の店や屋台が、とにかく低価格路線を目指す方向にあるからといって、安易なケチり方をすると見透かされてしまいます。「シンプル」と「チープ」は別物。ここではじめて「風水」でも何でも参考にし、お金をかけるべきところに思い切って投資した方が良いようです。

　ともあれ、成熟しているようで発展途上の観のあるベトナムでの自営業。売り物もスタッフも店舗も、なかなか理想どおりのものは手に入らないでしょうが、焦りと嘆きは禁物です。「できるかな」のノッポさん並みに機転を利かせ、ここで手に入る最良のものを工夫して使っていく努力をしていきましょう。

　コツコツと地道な節約を重ねながら、使うべき時には使い、捨てるべき時には思い切って捨てる。ゆるぎない覚悟と確かなアイデアをもって真っ当な商売をすれば、たとえ相手がテポドンだって避けて通るはず。ガッツです。

オフィスジパンング・今日の弁当
29屋さんの日記、他ベトナムの宅配弁当店オフィスジパングの弁当ニュースなど。
http://blog.livedoor.jp/info29/

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（2006年8月号／2006年8月18日 金曜日 10:26JST更新）