No.99 ベーシスト
ホーチミン市で生まれて、音楽大学でクラシックヴォーカルの勉強をしたんだよ。オペラとかね。そのころ趣味でベースも始めたのさ。
音大を卒業しても、音楽関連の仕事に就ける人なんて、ほとんどいない。でも普通にオフィスで働くのは気が進まなかったから、友達のやっているスタジオでサウンドエンジニアとして働きはじめたのさ。何も知らなかったから、レコーディングに来る歌手たちの意見を聞いて、それに合わせられるように勉強したんだよ。
スタジオでは4年間働いた。その間に、ドンコイ(Dong Khoi)通りのバーなんかでベーシストとして演奏するようになったのさ。自分たちのバンドを組んでいたんじゃなくて、歌手のサポートみたいな仕事だね。
そうやって色々な店で、主に英語のポップスを演奏して腕を磨いてから、バンドを組んだんだ。それが2003年のこと。このバンドはへヴィメタルをやっていて、メンバーは全員ベトナム人さ。CDやDVDも出したし、今でも活動しているんだよ。
2005年にはある外国人が声をかけてくれて、彼のバンドのメンバーになった。このバンドはラテンやロックをやるバンドで、市内のバーで演奏する他に、タイやカンボジアにも行った。2009年末には香港、マカオにも行く予定さ。
そうやって経験を積んできて、ごく最近、もうひとつバンドを作ったんだ。フィリピン人がひとりと、あとはベトナム人のバンドでね。こっちではレゲエやジャズ、ファンクを中心に演奏しているんだ。
そういったバンド活動以外に、歌手のレコーディングやステージの手伝いもしている。人気歌手のフーン・タン(Phuong Thanh)、シウ・ブラック(Sieu Black)、 ミー・タム(My Tam)、ホン・ニュン(Hong Nhung)などのレコーディングに参加したこともあるよ。
ベース自体も好きだから、今24本持っている。ベースは4弦が基本なんだけど、個人的にはあまり使わないので2本しかない。5弦ベースが10本、6弦はフレットレス1本を含めて12本さ。
ベトナムでも買うけど、アメリカから通販で手に入れることが多いね。通販だから手元に届くまで触れられないだろ? だから本当に気に入ったのには巡り会えなくてね、それが本数が増える一因さ。
そうそう、この前、ネックの太さや弦の高さを全部自分でデザインして、オーダーメイドしたのもあるよ。ベトナムで1500US$くらいしたけど、アメリカで買ったら8000US$はするんじゃないかな?これはさすがに気に入って、いつも弾いているんだ。
今は毎日違う店やステージで、いろいろなバンド仲間と演奏しているけれど、もっとベースが上手くなりたいね。それと、まだサウンドエンジニアにも興味があるから、できればアメリカで本格的に勉強したいと思ってるんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2009年12月号/2010年1月29日 金曜日 16:30更新)
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