No.96 神父
ダナン(Da Nang)で生まれて4歳の時にバンメトート(Buon Ma Thuot)に引っ越したんだ。それから高校卒業まではそこで過ごした。両親ともカトリック教徒だったから、高校の頃には聖職に就こうと思っていたんだよ。
大学はホーチミン市に出て、英語を専攻した。卒業後に教会の施設で宗教哲学を勉強して、2002年には東ティモールへ行ったんだ。
僕の上には司教がいる。ベトナム全国はいくつかのブロックに分けられていて、それぞれに司教がいるわけさ。それをまとめるのが大司教で、1番トップにはバチカン市国の法王がいるんだよ。
僕の担当はダラット(Da Lat)やバンメトートがある中部高原で、そこの司教の指示のもと僕たちは動いてるんだよ。彼から東ティモールへ行くように言われてね、2年間、東ティモールの人に英語を教えたんだ。
東ティモールは貧しいところで、資源はないし、どうやって発展していけばいいか分からない。でもそんなところでも、人々が英語を学ぶことですこしでも教育機会が増えるようにと、僕たちが活動しているわけだね。英語を覚えれば、本やラジオ、インターネットなどから知識を得られるからね。
そんな活動の後、今度はフィリピンのマニラで神学を学んだ。マニラは東洋のカトリックの中心地で、日本をはじめ、アジア各地から聖職者が勉強に来るんだよ。そんな仲間と交流しながら、自分の英語にも磨きをかけた3年間は、僕にとってすごく貴重な時間だったんだ。
マニラで過ごした後、2007年にダラットへやって来た。僕はドミニコ派に属しているから、幾つかあるドミニコ派の教会のひとつに派遣されたんだ。
今はここで、もうひとりの司祭と共に日々、活動しているんだ。礼拝したり、文献をベトナム語に翻訳したりね。週に3日は他の教会でカトリックの教義を教えているし、月に10日間くらい、ニャチャン(Nha Trang)やカントー(Can Tho)、ハノイなど、いろいろなところへ派遣されて、勉強したり、教えたりするんだよ。けっこう忙しい日々さ。
カトリックの司祭は、食べ物はなんでも食べられるし、ワインやビールなどのアルコールはOKだけど、結婚はできない。それは最初から分かっていたし覚悟を決めていたけれど、僕も男だから、綺麗な女性を見たら心が騒ぐさ。最初のころは恋心を抱くこともあったよ。
だけど聖職者として、人々のために生きるっていう使命があるから、個人的な恋愛感情は捨てなきゃいけないんだ。だから少しずつだけど、そういう感情や欲望を抑えてね、今では自分でうまくコントロールできるようになった。
僕たちは3年ごとに担当教会が変わるんだよ。次はどこへ行くのか、今はまだ分からないけど、できれば東ティモールやカンボジアなどの、恵まれない地域へ行きたいと思っているんだ。布教をしながら、少しでも困っている人たちの助けになるのが僕の願いだからね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2009年9月号/2010年1月29日 金曜日 16:30更新)
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