No.93 オーディオ機器販売
フエ(Hue)で生まれてね、学生時代もずっとそこで過ごした。大学では美術教師を目指して勉強をして、卒業後はしばらく地元の学校で教えていたんだ。だけど、給料が安くて生活が苦しいから、ホーチミン市に出て来たのさ。
友達の紹介で、日本とベトナムのジョイントベンチャー企業で着物の柄を描く仕事を始めた。ところが勤務5年目に、日本人の社長が亡くなって、会社は解散さ。
僕がその会社で働いている時に、妻が義兄の店を手伝い始めてね、それがオーディオ機器屋だったんだよ。主に中古機器の販売をしていたんだけど、義兄がやめてからは、妻が引き継いだんだ。
僕は失業しちゃったから、畑違いだったけど、一緒にその店をやることにした。そして今に至るってわけだね。
最初は、中部のゲアン(Nghe An)省やビンディン(Binh Dinh)省の業者が仕入れる日本製の中古テレビを主に販売してたんだけど、ちょうど2000年頃からかなあ、新品のテレビを扱うようになっていったんだ。
それからビデオプレーヤー、CDプレーヤーなんかが売れ筋になってきて、その後は、コンピュータ用のスピーカーやゲーム機、ポータブルCDプレーヤーという風に、トレンドが変化して来たんだよ。今ではコンパクトMP3プレーヤーが、若い人達を中心に人気だね。
この通りには他にも同じような店が並んでいるだろ? だからいろいろ工夫も必要なんだ。例えば、サービス。他店も仕入れ値は同じようなものだから、売り値では差がつけられない。だから購入後1ヶ月間は無料交換に応じるとか、そういう細かいところで違いを出すしかないのさ。
扱ってる商品は、ほとんど中国製だね。大きな声じゃ言えないけど、有名ブランドの名前がついていても、正規品じゃあないよ。本物とは値段が全然違うから、お客も分かっていて買って行く。この辺じゃあ、本物を扱っても売れないからね。 中心街の高級店とは客筋が違うんだ。
例えばMP3プレーヤー。本物との違いは耐久性だね。新品のときは、音質は10人中1、2人が「ちょっと違うかな」って思う程度の差だけど、だんだん劣化するし、機器自体もすぐに壊れるんだ。
だけど若者は見た目重視だからね、壊れたら最新デザインの商品に買い替えればいいと思ってるんだよ。高いお金を出して本物を買うより、安いのを次々と買い替えて行く方が、彼らのライフスタイルに合ってるんだね。
でもまあ、そんな品物はいつまでも扱えるものじゃないよね。それはよく分かっているから、いろいろ考えてはいるんだ。
1つは専門の人を雇って、修理まで一貫してできる会社にする方法さ。そうやって常連客を多く持つようにするやり方だね。
もう1つは、自宅を改装してカフェにすること。音楽カフェなら、今の経験を活かせるしね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2009年6月号/2009年6月19日 金曜日 17:06更新)
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