No.91 パラグライダーインストラクター
小さな頃から空を飛びたくてね、飛行機ばかり眺めていたよ。それで大学生の時に、外国へ行って飛行機の操縦を習おうと決心してね、学校を中退してお金を貯め始めた。大学は医学部だったんだけど、コンピューターで画像処理をしたり、ソフトの使い方を教えたりする仕事をしていたんだ。
そんな中、1995年に知り合ったフランス人がパラグライディングが上手くてね。彼からダラット(Da Lat)でいろいろ教えてもらって飛んだのが最初の飛行体験さ。その後、誰かがパラグライダーをやるって聞く度に、一緒について行って飛び方を覚えたんだよ。
飛べるようになったら、いろんな人から教えてくれって頼まれたけど、安全に飛べるように教える自信がなかったから、全部断っていたんだ。
2003年に、貯金とカナダに住む叔父の援助で、6ヶ月間カナダで軽飛行機の制作と操縦を習った。その時にパラグライディングの教え方も習ってね、やっと人に教える自信がついたんだ。
今はダラットでシニアインストラクターとして教えてる。ベトナムではまだ決まりがないから、誰でも教えられるんだけど、オレのところは国際航空連盟(FAI)の規定に準じてインストラクターの資格を決めているんだよ。
2008年には、パラグライダーとは直接関係ないけど、すごくいい体験をした。それは、エヴェレスト(Everest)登山さ。
ベトナムの飲料会社がスポンサーになって、ベトナム人がエヴェレスト初登頂に挑戦したんだ。本当は30歳までの募集だったから規定を超えてたんだけど、トライしたら選ばれてね。
18人の候補者が、ベトナムのファンシーパン(Phang Xi Pang)山、マレーシアのキナバル(Kinabalu)山、タンザニアのキリマンジャロ(Kilima Njaro)山、そしてヒマラヤ(Himalayan)山脈と、テスト訓練を繰り返すうちに4人に絞られて、そこに残ることができた。
それで4人でエヴェレストに挑んだんだ。俺は、ダラットでのトレーニング中に足を痛めてね、そのせいで山頂には立てなかったんだけど、他の3人は山頂まで登ったんだよ。俺はサポートに回って、7000m付近まで登った。
エヴェレストっていう究極の世界では、安全が最優先なんだ。それはパラグライダーも同じ。安全を確かめながら、1歩ずつステップアップして行かないと危険なんだ。失敗が死につながるスポーツだから、とにかく安全第一だよ。
ベトナムの他のバラグライダーグループの中には、あまり経験がないのに教えているヤツもいる。それでやっぱり、事故が起きてるんだ。だから、パラグライダーはちゃんとしたところで習うべきだよ。
今、ダラットのランビアン(Lang Biang)山ではオレたちと一緒に行かないと飛行許可が出ないんだ。だから、ここでは安全第一でパラグライダーを楽しめるってわけさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2009年4月号/2009年5月20日 水曜日 15:46更新)
|