No.90 野球コーチ
ホーチミン市で生まれてね、高校生の時に友達から誘われて、初めて野球をしたんだ。ベトナムでは珍しいスポーツだったから、すごく興味が湧いたね。
そのときは日本人のビジネスマンが週末に教えてくれていたんだ。特定の練習場所があるわけでもなかったし、言葉の問題もあった。通訳をしてくれるベトナム人だって、野球のことが分からないから、通訳にならないよね。
そんなふうに3年くらい続けてたんだけど、その先生が日本に帰っちゃったり、メンバーも仕事や私生活が忙しくなったりして、皆だんだんやらなくなっちゃったんだ。
それでも1人でコツコツ続けていたら、知り合いのつてで、日本の建設会社の会長と知り合うことができた。その人がニューヨーク・ヤンキース(New York Yankees)の松井秀喜選手のご両親の知り合いでね、僕がベトナムで野球を教えたいと言ったら、2週間だけだけど日本で野球の勉強ができることになった。
松井選手の母校、星稜高校の野球部員と一緒に、山下監督に教えてもらったんだ。1番すごいと思ったのはバッティングマシンだよ。あれがあるとすごくいい練習ができる。他にも、トレーニングの方法やルール、ゲーム運びなど、本当にいろいろなことを学んだよ。
ベトナムへ戻ってからは、クチ(Cu Chi)の高校で野球を教えた。日本へ行くきっかけを作ってくれた会長が援助している学校だったから、問題なく始められたんだ。道具類も会長が中古を寄付してくれてね。
でも、僕が教えていた連中が卒業したらそれまでさ。マイナーなスポーツだから、興味を持つ生徒が少なくて、その後、新チームはできなかったんだ。
それからはホーチミン市の日本人学校の子供達に教えたり、RMIT国際大学の学生に教えたり。日本人学校では、日本人と一緒に教えてるから、教え方なんかも参考になる。RMIT国際大学では週に1日、2時間教えている。今は20人くらいメンバーがいるから、2チームで練習試合ができるよ。
教える時に難しいのは、ルールもそうだけど、やっぱり技術的なことかな。ボードに描いて説明して、実際にゲームでまた説明して。そうやって何度も説明しても、なかなか伝わらないんだ。なにしろ、テレビでも野球を見るチャンスなんてないからね。
それでもずいぶん上手くなって、試合もできるようになってきたから、近々、ホーチミン市にあるアメリカ人や日本人のチームと試合をしたいと思っているんだ。それで、対外試合に慣れて来たら、クアンチ(Quang Tri)の高校チームと試合をしたいね。クアンチのチームは、インディアンズに在籍しているベトナム人が資金援助していてね、アメリカ人コーチが教えているし、専用のグラウンドもある。そんなチームと対戦できたらいいと思っているんだよ。それから、カンボジアのナショナルチームとも是非戦ってみたいね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2009年3月号/2009年3月25日 水曜日 14:52更新)
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