豆乳屋
フエ(Hue)で生まれて、1972年にダラット(Da Lat)に来てね、結婚して1982年からここで豆乳を売るようになったのよ。豆乳はもともと好きだったし、作り方も難しくないからね、自分で調べて、まずは大豆の豆乳から始めたの。そのころは1杯100ドン(約0.6円)だったわねえ。
1年くらいたってから、ピーナッツと緑豆の豆乳も加えて、それからはずっと3種類。主人と2人で売ってたけど、昔はあんまり売れなくてね。主人が昼間、教師をしていたから暮らしてはいけたけどね。
それが1987年頃からだんだん売れるようになってきたのよ。観光客が増えてきたのと、地元の固定客がついたのが理由だと思う。今は主人は亡くなったけど、姉妹3人で夕方から深夜まで、1日約500杯は売っているのよ。
原料の豆は昔は市場で買ってたんだけど、どうしても高くなるし品質も安定しないからね、今じゃピーナッツは中部から、緑豆はファンラン(Phan Rang)、大豆はバオロック(Bao Loc)っていう風に、豆ごとに農場と契約して2、3ヶ月に1度届けてもらうのよ。
それで、鍋に1杯になる分量の豆を毎日約6時間水に浸けて、すり潰したものを茹でて仕込むの。ピーナッツは先に軽く焼くのがコツね。家が近いから、仕込みは家でやって、ここでは売るだけ。鍋が空になったらそれでおしまいよ。
一緒に売ってるペイストリー類は全部他から仕入れてるんだけど、お茶受けじゃなくて豆乳受けね。食後に甘いものが欲しい人や、朝食用に持ち帰る人に好評なの。
鍋はね、最初から豆専用にしておかないとだめ。肉料理に使った鍋で仕込むと、豆乳が固まっちゃう。これはもう、いくら洗ってもだめだからねえ、不思議なものね。
大豆には、煮込む時にパンダナスの葉を入れる。それで、うっすらと緑色がつくのよ。他の店では豆をすり潰す時に葉を一緒にすっちゃうところが多いみたい。その方が手間はかからないけど、味は確実に違っちゃうわ。
あとは、豆が高いからってココナッツをいれたりするところもあるわね。ウチはそんなことしてない100%の豆乳だからね、濃さが違うのよ。
ウチは店っていうより屋台に近いから、お客さんが座るスペースがないでしょう? 歩道の上ならいいんだけど、車道にはみだしていると、時々やってくる警察に怒られる。そういう時はお客さんに頼んで、歩道に詰めてもらうんだけど、みんな文句も言わずに協力してくれるから、本当に助かるわ。混んでる時は立ち飲みしてくれる人もいたり、毎日必ず来てくれる常連さんもいたりで、お客さんには恵まれているわ。
こんな小さな店でも、まじめにやっていれば暮らして行けるもの。子供達もシンガポールに留学したり、IT関連の大学に行ったりしている。これも通ってくれるお客さんがいるからよね。だから、これからも豆乳屋をやって行こうと思っているのよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年12月号/ 2008年12月15日 月曜日 16:23 更新)
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