売り絵画家
ホーチミン市で生まれてね、1960年からヤーディン(Gia Dinh)美術学校の5年間のコースで油絵を勉強したんだ。今はホーチミン市美術大学って名前になってるけどね。先生はベトナム人だったけど、有名な画家でね、フランスやイタリアで勉強した人でさ、だからオレ達もヨーロッパスタイルの絵画を学んだってわけさ。
卒業した時は戦争の真っ最中だったからね、工兵として従軍して、10年間軍隊にいたんだ。その後政府系の出版社に就職して、約20年間、本の表紙や新聞の挿絵なんかを毎日描いてたんだよ。だけどだんだん目が悪くなってきてね、それで2003年に会社を辞めて、それからはフリーの絵描きさ。
今はいくつかの画廊と提携していて、頼まれた絵を描いているんだよ。8割は写真などの資料があって、それを基に描いていくんだ。有名な絵の模写も多いね。それでも、写真だったら光の回り込みを変えたり、暗い部分をすこし明るくしたり、いろいろ工夫しているんだよ。
テーマだけ決まっていて、自由に描いていいってこともある。もちろんこういう方が描きやすいね。
風景画が好きだから、模写でも風景画だと楽しいよ。だけどどんな絵でもちゃんと描けないと仕事にならないからね。楽しいかどうか、それはまた別のことさ。
キャンバスや紙は画廊で用意してくれる。だけど絵の具は自前なんだ。たまに水彩画の依頼もあるけど、ほとんどが油絵だから、油絵の具は必需品さ。絵の具はね、学生の頃はフランスやイタリア製のを使ってた。でも戦後は手に入らなくてね、ロシア製や中国製ばっかりだよ。ロシアのはコストパフォーマンスが悪いし、中国のは粒が大きくてざらざらでね、だけど安いんだ。たまに日本やドイツのも売ってるんだけど高いからね、主に中国製を使っているよ。あとは、絵の値段によって使い分けたり、ここはどうしてもいい色が欲しいっていうキメのところ、たとえば顔とかさ、そういうところには日本製を使ったりするんだよ。
1枚仕上げるのに、絵の大きさや、その時のノリによって違ってくるけどだいたい4日〜1週間かかるね。それで1枚25万〜70万ドン(約1640〜4610円)くらいになる。画廊ではそれを80万〜130万ドン(約5260〜8550円)くらいで売ってるようだね。
お客はいろいろさ。画廊が観光客の多い場所にあれば外国人が多いし、普通の街だったらベトナム人が主だね。でもオレにとっては、どちらでも関係ないんだよ。
本当は自分で画廊を持って、ベトナムのいろんな画家の絵も扱ってみたいんだけどね。絵ってのは、置いておけば売れるってもんじゃないからね、開店資金以外にかなりの資金がないと難しい。とてもそんなお金はないから、当分はこうやって、注文に応じてこつこつ描いていくしかないと思ってるんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年10月号/ 2008年10月13日 月曜日 12:13 更新)
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