八百屋
1983年まで、公営の八百屋で働いていたんだ。だけど給料が安くて生活が苦しかったから、ダラット(Da Lat)で自分で店を始めたのさ。独立するって言っても、八百屋しかできないからね、政府の土地を借りて店を作った。それからずっとここで商売をしてるんだよ。
主に野菜を売ってるけど、他にもいろいろ扱ってるんだ。野菜はだいたい30種類くらいあるね。果物が4〜5種類。あとは米が5種類、豆腐や豆もあるし、鶏肉、牛肉、洗剤や油、魚醤ヌックマム(Nuoc Mam)なんかの調味料、それから袋菓子、缶詰や牛乳もおいてるよ。
毎朝4時に市場に行って、野菜や果物を仕入れる。全部で100kgを越えるけど、それを1度にバイクで運ぶんだ。バイクには特製の荷台を付けてあるし、長年の経験で積み方を覚えたからね、問題なく運べるよ。
市場での仕入れ先はだいたい決まってる。でも時には気に入る野菜がないこともあるからね。そういう時は別のところでも買うよ。前日の売れ行きを参考にしながら仕入れ量を決めていくんだよ。
それから、その日の値段も考慮する。例えば、昨日まで1kgで1万ドン(約70円)だったものが、1万5000ドン(約100円)になったら、やっぱり売れ行きは落ちるからね。少なめに仕入れて様子を見るのさ。
仕入れた野菜や果物は、ほとんどその日のうちに売り切るね。だから夕方にはなくなっちゃうものも多い。それでも少しは売れ残りが出るから、それは次の日に早めに売るようにしているんだ。
仕入れ先は顔見知りだから卸値で買える。それに少し値段をのせて売ってるんだよ。今ならキャベツは1kgで3000ドン(約20円)、バナナは6000ドン(約40円)。え、市場より安いって? ウチは仕入れ値を基に値段を付けてるからね、市場は毎日値段が変わるから、たまたま高い時に行ったんじゃないのかい? そうじゃなきゃ、観光客だと思われてボラれたんだね。
店先に野菜を並べてるけどね、かっぱらいには遭ったことがないね。客が買ったものを忘れて行くことはよくあるけど、次の客がそれを持って行っちゃうこともないし。むしろみんな「忘れ物だよ」って教えてくれるよ。まあ、ほとんどの客が顔見知りってこともあるけどね。近所の人や、通勤で前を通る人が買ってくれるんだ。だからこっちも「今日はこれが新鮮だよ」なんて勧められる。そんなやり取りが、小さいけど売り上げに繋がることもあるから大切なのさ。
最近はダラットでもスーパーマッケットの建設が盛んだけど、完成しても売れ行きに影響はないと思っているんだよ。スーパーや市場は、たくさん買って家で保存する人には便利だけど、その日使う分をちょっとだけ買う時は、ウチみたいな顔見知りの小売店の方が便利だろ?だから、どうなるか分からないけど、できなくなるまでずっとこの店を続けて行くつもりなのさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年9月号/2008年9月9日 火曜日 11:26 更新)
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