床貼り屋
親父が大工だったからね、小さい頃からよく手伝ったものさ。それで学校を出て、自然と大工になった。それから主にドアや階段なんかを作っていたんだ。
今でもドアなんかも作るけど、最近はみんなお金に余裕ができたのか木で床を作る人が増えてね、床貼りの仕事が多くなってきた。
そんな折、すごくいい床材が発売されたんだ。ドイツ製を筆頭にベトナムで作っているアメリカやマレーシアのブランド物が流通しだしたんだよ。値段はドイツ製のが平米35万ドン(約2260円)。アメリカやマレーシアのは10〜20万ドン(約650〜1290円)くらい安い。まあ、その分、質は落ちるけどね。
品質の違いは精度と材質によるんだ。これはドイツ製で表面は木に見えるだろ? でも実は違う。オレもなんだか知らないけど、水にも火にも衝撃にも強い材料だよ。色も何種類もあるし、柄も節目の多いヤツや筋が通っているのとか、いろいろ選べるんだよ。厚さは7mmで裏にはプラスティックが貼ってある。中は木の集積材だね。四隅に特殊な溝が切ってあるから、当て木をしてハンマーで叩くだけで、隙間なく敷き詰められる。そのかわり左右を換えたりはできないんだ、溝の形が全部違うからね。
敷き詰めるには糊もなにもいらないんだよ。まずはコンクリートの下地に薄いビニールを敷いて、その上から発砲ウレタンを敷く。あとは端からどんどん組んで行けばいいのさ。壁際を5〜6mm開けるのがコツといえばコツかな。これでも中身は木材だから、多少伸縮する。だから、その分の余裕を取っておくのさ。あとはドアの部分など、幅木で隠れないところだね。そういうところは細かく加工しなきゃいけないから、経験と専用の工具が必要なのさ。
それ以外はホントに簡単で、誰にでも組めるよ。本物の木だと伸縮が大きいからめくれ上がったり割れたりするけど、これなら手入れを間違えなければ20年は持つらしい。もっとも、できてからまだ20年経ってないから、誰にもホントかどうか分からないんだけどね。
オレたちは、この材料を売っている代理店と契約して仕事をもらってるんだ。代理店が施工料込みで客に売る訳だね。最初は施工屋が集められて、専門の講習があったんだよ。
幅木も床板とセットになってるんだ。一見、ホントの木みたいだけど、これも本物じゃあないんだよ。中は集積材だけど、外はダイノックシートっていうステッカーが貼られている。こいつは角の部分を45度に切らなきゃいけないから難易度が上がるけど、今は1度ずつ角度を変えて切れるカッターがあるから、工具さえ揃えれば大丈夫さ。
幅木はさすがに釘を使って止めるんだけど、ベトナムの壁はレンガにコンクリートだからね、普通の釘じゃあ上手くいかない。それで、エアーの圧力で一気に釘を打つ。まあこれも工具頼りだね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年8月号/2008年8月8日 金曜日 11:35 更新)
|