バーオーナー
戦争が終わって、牛買いをやってたんだ。ニャチャン(Nha Trang)、バンメトート(Buon Me Thuot)、ファンラン(Phan Rang)、ソクチャン(Soc Trang)、タイニン(Tay Ninh)って走り回ってね、牛を買っては、ホーチミン市で売る。牛の重さを量るような計測器は持ってないからね、目分量さ。今でも一目見れば、牛の重さが分かるよ
。
そんなことをしているうちに、ドイモイ(Doi Moi)で外国人が増えて来た。元々バーをやってみたかったから、チャンスだと思って、1990年にダラット(Da Lat)の市場近くに店を借りたんだ。当時は大きなホテルができつつあって、外国人が多かった。だから連日、客には困らなかったんだ。
それで欲が出たってわけじゃないんだけど、大きな街でもバーをやってみたくなって、ホーチミン市に移ったのがその2年後。これも悪い商売じゃなかったけど、ギャングが多いし、若いベトナム人客は礼儀を知らないし、街も大きすぎてなじめなかった。
そんなこんなで嫌になっちゃって、1994年にダラットに戻って来たんだ。今度は中心地から少し離れてるけど、家を買ってね、半分をバーにした。それからずっと毎日店を開けてるんだよ。
以前は2人の娘が手伝ってくれていたから、オレは結構のんびりできたんだけど、娘たちが仕事や学校でホーチミン市に出ちゃってね。それからは何もかも1人で切り回してるよ。
酒は娘に頼んで、ホーチミン市から仕入れている。だからいろんな種類の酒があるのさ。カクテルだって、メニューには20数種類っきゃ載せてないけど、80はできるね。もっとも、ちゃんと習ったわけじゃない。本を見たり、客に教わったりして覚えたのがほとんどだから、全然自信はないよ。シェーカーだって振れないから、ジューサーを使ってるしね。
それに高い酒はあんまり売れないからね、自然と値段は安めの設定になるんだ。ビールだって1万5000ドン(約90円)から。しかもハッピーアワーは20%オフだよ。だからあんまり儲からないけど、自宅だからね、家賃がかからない。それに1人暮らしみたいなものだから、生活費もしれてるし、こうやって毎日楽しく暮らせればそれでいいのさ。
客は90%以上が外国人だよ。だから、彼らの旅行シーズンの11月から2月頃が忙しい。彼らが楽しめるように、ビリヤード台や卓上ゲームも取り揃えてるよ。毎日客の相手で鍛えてるから、オレのゲームの腕も上がって来た。自信があるなら、今度手合わせを願いたいね。
客のほとんどが旅行者だから一期一会だけど、中には何年も経ってからまた来てくれるヤツもいる。 開店当時からサイン帳を置いてるんだけど、古いのを引っ張りだして来て、「ほら、これがオレだよ」なんてね。そんなときは嬉しいね。もっともこっちは全然覚えてないことが多いけどね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年7月号/2008年7月18日 金曜日 10:52 更新)
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