建設業
戦争中に政府の学校で建設施工全般を勉強したんだよ、北でね。もともと北の出身だからね。それで戦争が終わって、学校からダラット(Da Lat)へ派遣された。こっちは南出身の学生が多かったから、少しは北の人材も必要、ってわけさ。それが32年前。それからずっと政府の機関で働いている。
もっとも最近は建築物の検査が主な仕事だから、やることはあまりないんだ。それで自分の会社を立ち上げて、工場や住宅の設計から施工までを請け負ってるのさ。まあ、そういう訳だから、他人名義なんだけど、実質オレが社長だね。
そっちの仕事場はラムドン(Lam Dong)省内全域だよ。設計を含めて80人程のスタッフで複数の現場をまかなっている。オレはあちこちバイクで回って、チェックしたり、指示を出したりの毎日さ。
もちろん施主とも頻繁に会っていろんな話をする。共通の理解を得て、後々揉めないようにしているんだよ。だから施主との間ではあんまり問題は起こらないね。むしろ大変なのは政府の方さ。細かい報告をいちいち入れないと、次の作業に進めない仕組みになっていてね。
もっとも最近はずいぶん簡素化されて、昔に比べれば楽になってきた。それに長く仕事をしているから、役所にも知り合いが増えたし、やり方も分かってきたしね。
もう1つ大変なのは、土地がら傾斜地が多いってこと。だから基礎工事がすごく重要なんだ。土を掘ってちゃんと基礎を作らないと家が傾いちゃう。職人が下手だとうまくいかないから、いい職人を抱えるのも大事な仕事だね。
材料は格段に進歩したよ。昔はベトナム製しか手に入らなかったし、機械がそろってなかったから、形や品質にばらつきがあった。それが今じゃあ輸入ものもあるし、国産だって外国資本の工場がたくさんある。
だけど、もちろんその分、値段は高くなった。今、普通に家を建てると1平米で総費用が17万〜300万ドン(約1110〜1万9610円)くらいかかる。貨幣価値が変動してるから単純には比べられないけど、金に換算すると90%くらい高くなってることになるね。
それでも最近は改築より新築が多くなっているんだよ。去年は20軒程手がけたけど、9割が新築さ。安い家で200万ドン(約1万3070円)、普通は8000万ドン(約52万2880円)くらいの物件が多いね。
中にはすごいのもあって、個人住宅だけど、10×25mの敷地に地下2階、地上2階+ロフト。材料も高級品ばかり使ってね、工期は7ヶ月もかかったんだ。こうなると家っていうより屋敷って感じだね。
ウチは子供が4人いる。学校の先生をやったり、電気店で仕事をしたりしているよ。中の1人は今、日本に留学中さ。
だけどこの仕事を継がせようとは思っていないんだ。みんなそれぞれ好きなことをすればいいのさ。オレは自分で少しずつこの会社を大きくしていくつもりだからね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年5月号/2008年6月23日 月曜日 10:17 更新)
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