鱒養殖
北部のナムディン(Nam Dinh)で生まれてね、ずっと軍人だったんだ。長い間ザライ(Gia Lai)に駐留してたんだけど、そこですっかり森の生活が気に入っちゃった。
退役してからも、森で暮らしたくて、19年前に家族みんなでダラット(Da Lat)に移って来たのさ。
谷間に土地を買って家を建て、最初は畑で野菜を作った。それから植林をしたり魚を飼ったり。森はいいよ、静かで空気もきれいだし。
魚はね、池を作って飼うんだよ。10年くらい前から始めたんだ。
そんなことをしているうちに、2年くらい前かな、中央政府の水産研究員が、水産実験の場所を探しにやって来た。それでたまたま観賞魚用の池にしようとして、養殖のものとは別に庭に作っていた池で鱒を飼ってみないか、っていう話になったのさ。
研究員がフィンランドから卵を輸入して孵化させ、それにサパ(Sapa)で育てた稚魚も加えて、池に放したんだ。今はその魚が750匹程いる。彼はさらに15万匹の孵化に取り組んでいて、それが稚魚になったら、何割か分けてもらう予定なのさ。
今いる魚は約2ヶ月間育てたもの。4ヶ月で1キログラム程に育つんだけど、そうしたら出荷できる。それを繰り返していくわけだね。
鱒は今まで飼っていた魚と違って、15度以下のきれいな水じゃないとだめなんだよ。だから毎日の餌やりの他に、10日に1度は池の掃除をする。その上、紗(しゃ)の陽よけを張って、水温が上がらないように工夫する必要もあるんだよ。
山のなかでどうやってきれいな水を確保するかっていうとね、実はこの辺の山には、乾季になっても枯れない水があちこちで湧いているんだよ。その水を、何カ所かからホースで集めてくるのさ。
そんなことを農作業の合間にやっている。他にも畑があるし、80頭の牛と20匹のヤギもいるしね、その世話もしなきゃいけない。もちろん家族だけじゃあ面倒見切れないから、人を4〜5人雇っているよ。
実はこの場所は観光開発地区になっていて、2〜3年のうちには立ち退かなければならないんだ。せっかく畑を開いたり、政府の事業で10ヘクタールも植林して手入れをしたりしていたのにって、少し残念なんだけど、しょうがないよな。それで少し離れたところに、同じような谷間の地形を見つけて、そこを50年契約で借りることにしたのさ。
立ち退きの保証や何やらで4000平方メートルの住宅用地と16ヘクタールの畑、80ヘクタールの森林が借りられたんだよ。そこに池を作るんだ。
今度はね、2000匹規模の池を5つ作る予定だよ。そこで2ヶ月毎に出荷できるように、ローテーションで鱒を育てるつもりなんだ。そうすれば、1年に6回出荷できるからね。はやく安定出荷ができればいいな、って思っているんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年5月号/2008年5月22日 木曜日 10:29 更新) |