自転車屋
20年くらい前から、ずっとスポーツ自転車を扱ってきたんだ。そりゃ、昔はみんな貧乏だったし、その辺を走るだけなら中国製の安いので十分だからね、商売はきつかった。
だけどこういう自転車が好きだからね、しょうがない。全然売れないならやめるっきゃないけど、ぼちぼちでも売れたからね、だから続けて来れたのさ。
その頃はほとんどが東欧製でね、ロシア、東ドイツ、ポーランドなんかから細々と入って来たんだよ。それがドイモイが始まって、SEAゲーム(東南アジア競技大会)にベトナムが初参加することになってね、レーシングチームにいい自転車が必要だってんで、日本から輸入したのさ。
それからしばらくはレーシングチームのメンバーの自転車を主に扱っていた。それでもまだ輸入は難しかったな。個人的に外国に行った人が持ち込むくらいだったね。
今は台湾製が主力だよ。アメリカ製や日本製のフレームもあるけど、いつも置いてある訳じゃない。質は材料が鉄かアルミかによって違ってくるけど、生産国の違いはほとんどない。だけどやっぱり有名ブランドのものは高いからね、アメリカ製のが1番高く売れるね。
中古フレームは今でも扱っているよ。外国人が帰国のときに売りに来たり、カンボジアからも入ってくる。そういうフレームにギアとかハンドルとか部品を組み合わせていくんだよ。だから実際にはフレームよりも部品がよく売れるんだ。部品はほとんどが新品で、台湾から入ってくる。
それでまあ、だいたい250万ドン(約1万7000円)くらいからだね、完成品は。売れ筋は、350万ドン(約2万3810円)くらいまで。高いのは1000ドルくらいのもあるけど、めったに売れるもんじゃないよ。もっともうちじゃあ売ってないけど、中には5000ドルもするようなものに乗っている人もいるよ。
オレかい?オレも1台持っているよ。フレームはトレック(TREK)っていうアメリカ製で、変速機は日本のシマノ。値段?それは秘密でお願いしたいね。
自転車を買うときは、まず信用できる店を選ぶ。買って終わりじゃないからね。部品を交換したりして、だんだん好みの形に変えて行く楽しみもあるんだ。だから、そういう相談にも乗ってくれる店がいい。
それから可動部分をよく確認することだな。特にペダルの付け根のベアリングなど、しっかり見た方がいいよ。
あと、壊れやすいのは変速機だから、少しでも調子が悪いようだったら、早めに交換することだね。そうすれば遠くに出かけたときに立ち往生、なんて事態を招かなくて済む。
未だにこういう自転車屋はホーチミン市内でも5、6軒しかないからね、今じゃ結構忙しい。やっと時代がオレに合って来たって感じ。これからが商売の本チャンってわけさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2008年3月号/2008年3月26日 水曜日 10:46 更新) |