アンティーク時計屋
ベトナムの中部で生まれたんだけど、大学に行くためにホーチミン市へ来たのさ。当時、時計屋でアルバイトをしててね。英語と中国語を勉強してたから、外国人相手に語学が活かせれば、どんなバイトでもよかったんだ。時計屋はたまたまだね。
でも、働いてるうちにいろんなことを覚えて、仕事がどんどん面白くなってきた。だから卒業してすぐに、時計屋を始めたのさ。それから10年、ずっとこのドンコイ(Dong Khoi)通りで店を出しているよ。
店っていってもショーケース1つだから、引っ越しは簡単さ。だいたい3年くらいで場所代が上がるからね、そうしたらまた、他の場所を探すんだよ。他のお土産を扱う店と、スペースをシェアすることが多いね。そうすればお互いに店番を頼み合えるから、1人でやっている私にとっては便利なのさ。
昔はアンティークの時計を専門に扱ってたんだけど、最近はあんまり人気がないね。いい品も少なくなってきたしね。だから新モデルのレプリカも売っている。最近はこっちの方がよく売れるんだよ。「お土産に」って、10個、20個とまとめ買いしてくれる人もいるんだ。
だけどWTOに加盟したりして、ベトナムもレプリカにはうるさくなってきたから、もうすぐこういう商品は扱えなくなるだろうね。
アンティークはね、専門のディーラー店があって、定期的に見に行くんだ。そこにはベトナム全国から時計が集まってきていて、いろんな種類があるけれど、偽物だって混じっている。動かないのもあるけど、中を開けてみれば修理できるかどうか分かる。そういう諸々の知識がないと、いいものは買えないね。売れ筋はやっぱり有名メーカーのもの。ロレックスとか、パテックフィリップとか、オメガとか。だからそういうのを中心に買ってきて、それぞれに合ったベルトつけて、きれいに並べるわけさ。こういう時計は手巻きだからね、毎朝全部ゼンマイをまいて、時間をちゃんと合わせておくんだよ。だって止まってたり、時間が合ってない時計なんて、買う気がしないだろ?
壊れているものは、専門の職人に頼んで直してもらう。純正部品が手に入らないことも多いから、そういうときは合う部品を探して取り付けるんだよ。もちろん売る時にはちゃんと「これは3割くらい別の部品が入っている」なんていう風に説明するよ。リピーターも多いからね、信用が第1さ。
だけど年々売り上げは落ちるし、場所代も高くなる。「1人でやってるから儲かるでしょう」なんて言われるけど、実際にはそんなに儲からないね。オフィスワーカーの方が稼いでると思うよ。レプリカはもうすぐ売ることが出来なくなるだろうし、将来の見通しはあまりいいとは言えないね。だからそろそろ次のことを考えなきゃいけない。でもね、分かってはいるけど、実はまだ何も考えていないんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2007年9月号 | 2007年9月26日 水曜日 10:19 JST更新) |