ゲストハウスオーナー
両親がホーチミン市でカフェをやっててね、ビンユーン(Binh Duong)省ではリゾートも経営している。そんな環境で育ったから、オレも自然にこういう商売を選んだのさ。だけどいきなり大きなホテルをつくる資金はないから、親のホテルで3年働いて、貯金の範囲でできることを考えたんだ。それで場所をダラット(Da Lat)に決めて賃貸物件を探したのさ。
オランダで3年間ITの勉強している間に、いろんなホテルを見たり、友達から話を聞いて、バックパッカー向けの宿もいいなあと思ったんだ。ヨーロッパってひと口に言っても、国が違えばホテルも違う。フランスのホテルは外見は立派だけど、中は汚い。オランダのものは外は質素だけど、中は清潔。そうやって自分でいろいろ見てきたからね、方向性のアイデアはあったんだ。
なんでIT関連の仕事をしなかったのかって言うとね、まず会社勤めは性に合わないんだ。ITで起業してもいいんだけど、あれ、けっこう設備投資が必要だからね。
営業前に大変だったのは公安の許可だね。営業許可は出ているのに、書類が足りないって何回も言われてね、その度にホーチミン市に戻って書類を整えて来なきゃならない。でも賄賂は絶対に払わないよ。そんなものに使うなら、乞食に恵んだ方がましさ。1度払ったら、永久に払わなきゃいけなくなるし、悪いことは何もしてないからね。結局最後には許可が出たんだけど、ホントに時間の無駄だよ。
部屋は6室だけだから、オレたち夫婦と従業員4人で切り回せるんだ。料金は4US$と5US$。ここは涼しいから冷房はいらないし、物価もホーチミン市よりは安いからね、この値段設定でもやっていけるのさ。
だからこの辺には同料金のゲストハウスが他にもある。向こうは老舗だし、ガイドブックにも出ているから客が多い。となると、ウチが優位に立てるのはサービスしかないじゃない?だから部屋の掃除やリネン類の洗濯には気をつかっている。毎日部屋の隅々まで掃除するし、シーツも毎日交換するよ。それで稼働率は70%。ファミリービジネスだからね、アットホームな雰囲気を大切にしているんだ。
客はヨーロッパ各国、アメリカ、カナダなどから来てくれる。妻はフランス語ができるからフランス人も多いよ。アジア系はまだ少ないね。日本人は今まで1人だけさ。
ベトナム人の客は全くいない。でもその方がいいんだよ。ベトナム人はこういう小さなホテルでの過ごし方を知らないから、うるさいだろ。他の客に迷惑だからね。
今、両親と他の物件を探しているんだ。いいところがあればもう1軒ゲストハウスをつくろうと思っている。オレが全部の面倒を見るわけにはいかないけど、細かい仕事は、今シンガポールで勉強中の弟に任せてもいいし、妻の妹でもいい。そうやって小さなゲストハウスを何軒も持つのがオレたちの夢なんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2007年7月号/2007年7月19日 木曜日 10:27 更新) |