市場の肉屋
もともと実家が肉屋だったの。だから子供のときから手伝っていたんだけど、父が店を閉めちゃってね。それからは他の肉屋で働いたり、刺繍の縫い子をやったりしたこともあるわ。
でも10年前に市場のブースの権利を買ったのよ。私の店がある並びは全部肉屋。本当の持ち主はヴィッサン(VISSAN)っていう会社で、みんなそこに店を出す権利金を払って借りている。そしてさらに月々350万ドン(約2万6720円)ほど、家賃を払っているの。
私は2ブース借りているから、広さは4uくらいあるわね。それでもカウンターと作業台と大きなクーラーボックスを置いたら、あとは立って働くスペースしか残らないわ。
うちは牛肉専門で、尻尾は置いてるけど、内臓は扱わない。同じ肉屋でも、みんなそれぞれ商品は違っているのよ。仕入れは1日だいたい70〜80kg。卸売り業者が毎日届けてくれるのを、氷で冷やしておくの。ほとんどその日で売り切るから、電気冷凍庫は必要ないわね。残ってもクーラーボックスで保存すれば翌日まで凍っているわ。
店は朝4時から午後2時まで開けているけど、忙しいのは9時頃まで。スタッフを3人雇っていて、交代で休憩してもらって、配達もお願いしている。近場だったら1〜2kgでも届けるけど、遠いところは多く買ってもらわないと難しいわね。
肉の値段は安定しているから、そんなに変化しないけど、テト前だけは10〜15%ほど高くなる。これは仕入れ値が高くなるから、しょうがないのよ。フィレが1番高くて、今は1kg11万ドン(約840円)。普段はフィレが1番よく売れるわね。でも週末やテト前になるとスネ肉がよく売れる。この辺のポイントさえ押さえて仕入れれば、特に難しい商売ではないわ。
肉は卸売り業者がさばいて、部位毎に分けてくれるから、私はお客の注文にあわせて測り売りすればいいだけ。長くても2日で売り切っちゃうから衛生面も問題ないわね。ホント、誰にでもできる仕事よ。
牛はね、ビンユン(Binh Duong)省あたりの牧場で育てられているのよ。昔は肉牛用の牧場なんかなくて、農家が使役用に飼っていた牛を食べていたんだけど、数年前から変わってきた。牧場じゃ、ちゃんと肉牛として育てているから、流通も安定してきたわ。もちろん専用の肉だから、その分値段は少し高くなったけどね。
あと、昔に比べて肉の味も良くなったわ。今の肉は甘い。だけど昔の肉の方が柔らかかった気がする。牛の種類も違うんだろうけどね。
今は毎日こうやって店で働けて幸せな生活。まだ独身で、ホーチミン市の10区で姉の家族と同居しているから、店が終わったら家に帰ってのんびりできるし。だから将来のことはあんまり考えていないわ。とりあえずこの生活が続いていけばそれでいいと思っているの。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2007年3月号/2007年3月15日 木曜日 10:32 更新) |