鉢植え屋
メコンデルタの田舎町で生まれて、学校を出てからしばらく実家で農業をしていたんだ。それから近郊のタバコ工場で働いたんだけど、タバコ産業って景気が悪くてね。それでリストラされちゃって、失業しちゃったのよ。
しょうがないから姉を頼ってホーチミン市に出てきた。姉が鉢植え屋をやってたからね、4年前に支店を出したのよ。
姉の旦那の実家が、メコンデルタの下流で観葉植物や盆栽、鉢植えの花なんかを作っているから、彼は専門家なのね。それでこの木には水は1週間に1度とか、肥料はどれがいい、なんてことを習ったの。木や花の種類によって、条件が少しずつ違うから、覚えるのは大変だけど、これを知らないと枯れちゃうからね、しっかり覚えたわ。
今はその実家からの仕入れが6割くらいね。中間マージンがないから、客にも安く売れて好評よ。あとは主にダラットから小さめの鉢花を仕入れている。ダラットから持ってくるオジサンがいて、いうなれば安定供給元ね。
実はその小さめの鉢花が一番よく売れるんだけど、そればっかり置くわけにもいかないのよ。木や盆栽、サボテン類なんかを買いにくる人もいるし、商品にバラエティがないと客は集まらないの。そんなわけで、今ここには5000鉢くらいあるんじゃないかな。一番安いのが5000ドン(約40円)。高いのは150万ドン(約1万1400円)くらいね。
中には1年くらい売れないで置きっきっぱなしになっちゃう木もあるけど、仕入れて3日で売れることもあるし、こればっかりは分からないわね。それに木は利益率もいいし、ディスプレイ上の見栄えもいいから、やっぱり欠かせないのよ。
鉢は主にビンユン(Binh Duong)省産だけど、買うのは近くの卸屋からね。土も近郊の鉢植え用のを買って、適当な肥料と混ぜて木や花を植えるわけ。もちろん中には最初から鉢植えになって運ばれてくるのもあるけどね。
あとは毎日適宜水をやったり、枯れた葉を切って整えたり。3人のスタッフと一緒に手入れをするのよ。頼まれればデリバリーもするし、庭への植え替えもする。もっとも植え替えは自分じゃできないから、姉の店のスタッフに頼むけどね。
テト前は一番よく売れる時期。1日200鉢なんてこともあるわ。テトの後が一番暇なんだけど、それでも日に10鉢くらいは売れるから、店を閉めることはないわね。
この店は姉との共同経営だから、儲けは折半。だけど入った金はすぐに仕入れで出ていくし、なかなか貯まるものではないわ。田舎の父に仕送りもしなきゃ行けないしね。それでも独身だから何とか暮らしてはいけるけど。
でも、あたしは「経営」なんて難しくてよくわからないから、支店を増やすとか店を大きくするとか、そんなことは考えていない。このままずっとこの商売が続けられればそれで満足ね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2007年2月号/2007年2月8日 木曜日 10:47 更新) |