森林監視員
3歳の時に父が死んだ。それに戦争が終わったばかりでね、貧乏だったよ。ダラットの町中に住んでいたけれど、耕す土地も満足になかったから、10歳の時に母と兄弟4人で森に入ったのさ。川沿いの土地を開墾して、芋や柿を作ったんだ。
その後、ずっと野菜を作って暮らしてきた。兄弟はみんな家を出て、最後は母と2人。その母も1999年に亡くなってね、それからは独り暮らしさ。
1980年頃から、川のせき止め工事が始まって、84年にダムができたんだ。でも、川が湖に変わっただけで、生活は変わらなかったよ。
だけど川沿いの小道は水没しちゃうから、水位が上がる度に、道を高くしなくちゃならなかった。でも、手こぎの舟を手に入れてからは、川を舟でいけるから、町に出るのがずいぶん楽になったね。今はエンジン付きの舟で、これが唯一の財産だよ。
ダムは農業用に作られたんだけど、最近は観光用に見直されてきてる。今は開発の真っ最中さ。それで、土地に詳しいこともあって、国営の開発会社で森林警備員をしているんだ。
管理地は湖を含めて2799ヘクタール。それを10人で管理している。森の中で何かあると困るから、たいていは2人組で出かけるんだ。森には鳥が200種類以上いるし、動物も鹿やハリネズミなど10種類以上住んでいる。
そんな森を毎日エリアを決めて見回るわけだね。一番怖いのは山火事だから、燃えやすいものを撤去したり、掃除したりが主な仕事だ。あとは盗伐がないか、目を光らせてなきゃならない。この一帯は国の所有地だから、伐採は禁止なんだ。
この辺の人たちは決まりをよく分かっていて、盗伐はほとんどないけど、他の場所では盗伐の犯人とやり合って怪我人が出ることもあるから、気をつけないとね。盗伐の情報が入ったら、何人かで組になって、どう動くか、なんてことも訓練するのさ。
仕事時間は特に決まってなくてね、3時頃に終わることもあれば、森で夜明かしをすることもあるよ。でも慣れ親しんだ森で仕事ができるのはいいね。静かだし、空気はきれいだし、町とは大違いさ。
家は今でも森の中で、舟でしか行けないんだよ。電気もないし、夜は本当に静かだね。独りでギターを弾いたり、バッテリー式の小さなテレビを見たりして過ごす。もう慣れたから、寂しくはないねえ。
ただ、観光開発が進んでいて、次々次々と道ができたり、ヴィラができたりしている。家も近々立ち退いて、引っ越さなきゃならないんだよ。町が近くなって便利になるけど、静かな生活とはお別れだね。
だけど開発が進んでも森は残る。だから、これからもずっと森で仕事をしていきたいと思っているのさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2007年1月号/2007年1月26日 金曜日 10:56更新)
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