バイクタクシー
ホーチミン市総合大学で英語を学んで、会社に入って通訳をしてたんだけど、社長と喧嘩してやめちゃった。それで今度は経済大学で3年勉強したんだ。英語ができて、経済が分かればいいと思ったのさ。
それからいろんな仕事を探したけど、なかなか上手く行かなくて。結局選んだのはセオム(バイクタクシー)だよ。許可もいらないし、税金もかからない。バイクさえあれば誰にでもできる、気楽な商売さ。
組織は人間関係が面倒だね。その点、セオムは一国一城の主、好きにできるからいいよね。そこが気に入って、もう10年も続けてるんだ。
朝はだいたい5時頃から定位置で客待ち開始、夕方までそこにいるよ。オレのいる場所には、もう1人いて、計2台がスタンバイしてる。路地の中だから、あんまり人数が多いと仕事にならないんだ。
オレの定期利用客は毎日3人。齢を取って自分じゃ運転できないけど、車やバスはイヤって人たちだね。あとは不定期だけど、平均5〜6人の客がいて、1日だいたい10万ドン(約750円)くらいの稼ぎになるんだよ。
料金も昔から比べれば3割くらいはあがってるけど、最近はガソリン代が高いからね、たいへんだよ。でも独身だし、姉の家に住んでるから、月に150万ドン(約1万1280円)くらいは貯金できるね。
料金は距離によってだいたい決めてある。一緒に客待ちをする仲間と話して、同じ料金にしているんだよ。まあ、貧しい人は安めにするけど、最初の1kmは5000ドン(約40円)、あとは1kmにつき2000ドン(約15円)くらいが目安かな。雨が降っても、ラッシュアワーでもあまり変わらないね。
雨の時はゆっくり走ればいいだけだけど、ラッシュはいやだね。気を遣って疲れるし、暑いし、空気は悪いし。嫌いだけど、頼まれればイヤとはいえないからねえ。
目的地について客を降ろしたら、帰りはたいていそのまま自走してくる。たまに帰りも客がつくことがあるけど、滅多にないね。セオムにはそれぞれ縄張りがあるから、やたらなところで客を待つと、喧嘩になっちゃうんだ。
最近はメーター制のセオムや、電話で呼べるセオムがあるのは知ってるよ。外国人なんかは利用しやすいだろうね。でも、こうやって近所づきあいでやってる分には必要ないと思うんだ。携帯電話を持ってもいいけど、仕事中に呼ばれて断って「ホントに仕事か?」なんて思われても角がたつだろ?
実は兄がオランダにいて、3年前に行ったんだよ。だけど、彼はまだ学生でアパートは狭いし、オレたちは3人で押し掛けたから、住みづらくてね。1か月で帰ってきちゃった。でも、金を貯めて、もう1度行くつもりなんだ。大学院でまた、経済の勉強をしたいと思っているんだよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2006年12月号/2006年12月29日 金曜日 11:15JST更新) |