路上の金魚売り
ここに並んでる金魚売り全員がベトナム北部のナムディン(Nam Dinh)省から出てきたんだ。なにしろナムディンは魚を育てるんで有名なところだからね。わたしの育った村でも、多くの家で育ててるよ。
父は先生だったから、家では金魚を飼ってなかったけど、子供の時から近所の魚を見てるからね、魚に関してはみんな詳しくなるんだ。
水槽の大きさとか、餌の種類や分量、酸素の量、相性のいい魚と悪い魚など、知らないと仕事にならないからね。もちろんどの魚が珍しいとか、小魚を食べるとか、あとは値段もね。
そういうノウハウを子供の時から自然に学んでるから、こうやって金魚売りができるんだ。
知り合いが「ホーチミン市では金魚がよく売れる」って言うからさ、田舎から出てきたわけ。いまは亭主と一緒に家を借りて住んでいるよ。水槽をいくつも置くからね、どうしても場所が必要なんだよ。
魚はホーチミン市郊外のいろんなところへ行って仕入れてる。この種類はトゥドゥック(Thu Duc)、こっちはビエンホア(Bien Hoa)って感じで、あちこちで養殖してるんだよ。そういうところにバイクで行って買ってくるのさ。
それで、家で水槽に入れて飼うんだ。あとは毎日ビニール袋に小分けにして、自転車に積んで売るわけだね。
3年くらい前から毎日、今の場所で朝6時くらいから日暮れまで売っているよ。多少の雨じゃ休まない。だって魚は濡れても平気だからね。夫婦で売っているから、1日5万ドン(約380円)くらいは儲かるね。普通は仕入れ値に7%くらい乗せて売るけど、人気のある種類はもっと高くするのがコツだね。
難しいのはね、仕入れの時だ。よく見て買わないと、病気の魚が混ざっちゃう。そうするとすぐに全部に感染するから、気をつかうね。あとは家できちんと世話をしてやる。酸素を何時間おきにどのくらい入れるかを、水槽の大きさと魚の種類、数で決めなきゃいけない。それから餌の量も大事なポイント。もちろん秘密だけどね。そうやって気をつけていれば、魚が死ぬことはほとんどないんだよ。
ここで売ってる魚は、ベトナム原産のやつもいるけど、多くは中国やタイ、日本から輸入されたんだよ。それからベトナムで掛け合わされて、新しいのが作られたりして、これだけいろんな大きさや色の魚ができたんだ。
こうやって路上で金魚を売る仕事はとても気に入ってるんだ。店を持つと家賃が高いし、電気代なんかもかかるからね。魚も高く売らなきゃいけないし。そうなると競争力が落ちるだろ。店員を雇っても、知識がないとなかなか魚の世話がうまくできないし。だから路上が一番なのさ。時々お巡りさんに怒られるけど、悪い仕事じゃないから、だいたいは大目に見てくれるしね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2006年11月号/2006年11月1日 水曜日 10:47JST更新) |