ザオ族の物売り
最近はベトナム北部の私の村にも観光客が来るようになって、みんな刺繍製品や銀細工を売るようになったけど、私の家は村の奥にあるので、なかなか売れないんですよ。それで、2年ほど前からこうやって週に2、3回、街に出て来るんです。
街中の決まった場所で売るためには、毎月5万ドン(約370円)払って、さらに1回店を開けるごとに2000ドン(約15円)払わなければならないから、どうしても売り歩くか、場所代を取られないところで売るしかないですね。
雨が降ると大変です。客足は鈍るし商品は濡れるし。傘もさしますが、それで防げないくらいの降りになったら、もうお手上げです。でも、雨が降らなくても全く売れない日もあるし、そんな時はお昼も抜き。そうやって、やっと月に10万ドン(約750円)くらいの売り上げになるんですよ。
刺繍は農作業のかたわら、手が空いたら1針でもいいから縫うようにしています。そんな風に少しずつ作るから、手の込んだものは3ヶ月以上かかる。だからあまり安くは売れないんだけど、高いとお客さんも買わないし、その辺の加減が難しいですね。
それに、伝統的な形や模様なので、他の人との差別化ができない。みんな同じような物を売ることになっちゃう。でも私にはこれしかできないし。中には上着を100万ドン(約7460円)くらいで売る人もいるけど、なかなか売れるものじゃあないですね。以前は良かったみたいだけど、最近は材料も高くなったし、競争も激しいから単価も下がってきているし。
それでも私はまだこうやって街に出られるからいい方なんですよ。もっと山奥の人は私みたいに街に出る人に卸している。物々交換が基本ですけど、当然単価はもっと安くなるわけだから、彼らも大変でしょうね。
ザオ族は布を織らないんですよ。だからモン族などから、トウモロコシや米と交換で手に入れる。もっとも最近は、市場で買うことが多いですけどね。それでその布を藍で染める。
水を張った大きな鍋に葉を入れて5日くらいおいた液に、布を5分くらい浸す。乾かしてまた浸ける。これを繰り返すんです。これも暇をみてやるから、染め上がるまで1ヶ月くらいかかりますね。糸は材料と染料を市場で買って自分で染めます。そして刺繍していくわけですね。
金属細工は男の仕事です。純銀のもあるけど、高いので普通はアルミを混ぜています。真鍮も使いますよ。材料を溶かして、型に流し込む。そうやって、刺繍した布の飾りやブレスレット、イヤリングなどを作るんです。
最近はいろんな形をした針金状の材料を買ってきて、組み合わせて作ることも多いですね。手間を省いて、少しでも安いのを作らないと、なかなかお客さんの興味を引けないんですよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2006年10月号/2006年10月16日 月曜日 10:31JST更新) |