陶器工場管理
焼き物で有名な村の隣村で生まれたんだ。オヤジは建設作業員だったから、焼き物とは関係ない家で育ったけど、小さい頃から目にしてね、きれいなものだって思っていた。
それで自分でも作ってみたくなって15歳の時に今働いている工場に弟子入りしたのさ。学校に行きながら仕事をしてたんだけど、だんだん仕事が面白くなってね、学校なんかどうでもよくなっちゃった。
両親は「ちゃんと学校に行け」って言ってくれたけど、17歳の時に学校を辞めて、専業になったんだよ。
それから15年。いろんなことを覚えて、今は、ろくろで形を作ること以外はなんでも出来るようになった。粘土を捏ねて、型に流し込んで、乾いたら型から出して整形する。整形はろくろを回してね、余計なところを削り取って行くのさ。それから素焼きをして、絵を付けて、本焼きをする。そういうたくさんのステップを経て、ひとつのモノができあがるんだよ。
一番面白いのは釜番だね。社長から直接教えて貰ったし、やりがいがあるね。でもね、一番難しいポイントでもあるんだな。微妙な温度の違いで、釜に入っているたくさんの製品が全部ダメになっちゃうこともあるからね、気を入れてしっかりやらなきゃならない。
釜の温度には4段階あってね、0度から300度まで、300度から900度、900度から1120度、1120度から1230度って分かれているんだけど、この900度から1120度の3時間くらいが一番大切なんだ。その温度で粘土が陶器に変化するからね。温度が違うと形がゆがんだり、色が違ったりしちゃうんだ。だからその間はしょっちゅう覗き窓から中を見て、炎の状態を観察してね、ガスの量を調整するんだよ。
釜に火を入れるときは、朝の2時くらいまでかかるね。長くかかると4時くらいになることもある。朝は7時半から働いてるから、そんなときは寝る間もないね。会社は「そんなに働くな」って言ってくれるんだけど、好きだし、気になるし、寝ちゃあいられないよ。忙しい時は毎日、暇なときでも週に1日はそんな生活さ。もう慣れたから平気だけど、子供の顔をろくに見られないのは、ちょっと寂しいね。
給料は労働時間と生産高で決まるから、他の人よりかなりいいよ。それでも月に2〜3日しか家に帰れない生活は、そう長くは続けられないと思ってるんだ。年々体もきつくなっていくし、そうだなあ、あと2年くらいで5時になったら家に帰れる生活に戻りたいねえ。
そうなったら、朝までの仕事は若い者に任せて、オレは管理に専念だね。少しは楽をさせて貰うけど、そうやってこれからもずっとこの工場で働きたいと思っているんだ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2006年9月号/2006年9月20日 水曜日 10:25JST更新) |