ワイン醸造技師
ダラット大学で生物化学を勉強したんだよ。だから発酵は専門分野。卒業後は政府の品質検査機関で、いろんな品物のチェックをしていたんだ。
ワインづくりは2000年から始めた。会社が新規にワイン部門を立ち上げてね、そこで働くことになった。でもワインづくりの専門家なんかいないから、文献をあさってさ、勉強したんだ。
それから2年間、試行錯誤を繰り返して、やっと売り物になる品質のワインができた。15年前に品質検査の仕事の一環で学んだワインのテイスティングが、こんなところで役立つとは思わなかったね。
ダラットワインの原料はマルベリー(桑の実)とブドウ。ダラット(Da Lat)はもともとマルベリーの産地だし、ブドウのとれるニントゥアン(Ninh Thuan)も1時間ほどだから、ワインづくりに向いてるのさ。
今は午前中に政府機関、午後はワイン会社と2足のわらじ。夜またちょっと品質検査に戻ったりして、結構忙しい毎日だ。
ワインはね、まず材料を仕入れる。それを洗浄してより分け、ジュースを作る。このときに糖度とか、いろいろ測ってね、それでイーストの量や発酵条件を決めるんだ。
普通はジュースとイーストを混ぜて1ヶ月くらい置く。このときの温度は20〜25℃だね。それから温度を20℃以下に下げて4ヶ月、そこでワインと不純物を分けるんだ。そしてワインだけを別の容器に移して、さらに3ヶ月。するとやっとアルコール分16%くらいのワインができあがる。それを12%程に調整して、出荷するわけだね。
今はワインの技術者が15人いて、それぞれ細部を担当している。でも例えばアルコール分が高い、なんて問題が出たら、オレが解決しなきゃならない。なにしろ全体のことを分かっているのはオレだけだからね。
他の国のワインがブドウだけで作られていることは知っているよ。その方が味や香りが良くなることも分かっている。だからダラットでもブドウだけのワインも作っている。だけど、ベトナム人は昔から飲み慣れているマルベリー入りを好む傾向があるから、全部をブドウだけにしちゃうわけにもいかなくてさ。それにマルベリーには睡眠を促したり、腎臓にいい効果もあるからね。だからこれからもマルベリー入りのワインは作り続けていくだろうね。
いまは1種類のブドウしか使っていないけど、もっといいワインを作るためには、ブドウが重要だ。だからイタリアから10種類ほどブドウの苗木を持ってきて栽培しているんだ。いくつかはベトナムでもきっと育つだろうからね、イタリアンスタイルのワインが作れるようになるのも、もうすぐってことだね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
イラストレーション=mik ad design
(2006年7月号/2006年7月14日 金曜日 10:32JST更新) |