リヤカー八百屋
北部の田舎で養鶏をやってたんだけど、鶏インフルエンザでね、政府のお達しで、鶏を全部絞めちゃったのよ。もちろん補償金は出たんだけど、とてももう一度養鶏ができるような状況じゃなくなっちゃって。それでまあ、ホーチミン市に出てきたってわけ。
もともと主人がホーチミン市に出稼ぎに来てたから、迷うことなくホーチミン市を選んだの。そして同じように野菜を売ることにした。彼もこうやってリヤカーで近所を回っているのよ。
もちろん彼の回るところとは地域を変えているわ。売り歩くコースはほとんど毎日同じだから、常連さんも多くなるわね。
野菜はだいたい同じような品揃えで、10種類くらい。にんじん、クレソン、キャベツ、白菜、トマト、ジャガイモ、カリフラワーなんかだね。あとは季節によって、旬の野菜や果物を2種類くらい追加するわ。
野菜はね、主人が朝1時に起きて、バイクで卸売り市場に仕入れに行くの。10kmくらい先に市場があるんだけど、毎日200kgくらいの野菜を仕入れてる。それを全部バイクで家まで運んで、それから選別したり洗ったり、リヤカーに並べたりして準備をする。そうすると5時半頃になるわけよ。
それから家を出て、あとは歩きながら売っていく。12時には家に帰るんだけど、売れ残っていたら、お昼を食べてからまた売りに行くのよ。午前中に売り切れることはほとんどないから、たいてい毎日、午後も仕事ね。遅い日は8時頃まで売り歩くこともある。それでも売れ残ることがあるのよ。
売値はね、仕入れ値の1.5倍よりすこし安いくらいが目安。もし何かを1kg1万2000ドン(約90円)で仕入れたら、1万6000ドン(約120円)くらいで売るわけね。それでも同じものをスーパーマーケットで買ったら2万5000ドン(約190円)はするから、かなりお買い得な値段になっているはずよ。
そうやって1ヶ月に20日以上は仕事ね。朝も早いし、疲れるから、ときどき休みを入れないと病気になる。大雨の日もあるしね。だから3〜4日に一度は休みを入れるようにしているのよ。
こうやって2人で働いて1日の収入が10万ドン(約760円)から15万ドン(約1140円)くらい。小さな部屋を電気代込みで40万ドン(約3030円)で借りていて、あとは食べ物にお金を使うだけだから、月に100万ドン(約7580円)以上は残るけど、田舎に4歳の娘を置いてきたから、お金を送らなきゃならないし。なかなか貯金はできないわね。
それでも、この仕事は気に入っている。なんてったって鶏の病気に左右されたりしないところがいいわ。でも、本音を言えば、将来は村に戻って、家族みんなで暮らしたいわね。その時、農業をしながら暮らせるように、今はもう少し資金稼ぎをしなきゃいけないのよ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2006年5月号/2006年5月16日 火曜日 8:20更新) |