看板屋
長いこと兄の会社を手伝ってたんだけど、2年前、結婚を機に独立したのよ。そして、場所を借りて、小さな店を始めた。旦那は国営の船会社で働いてたけど、給料も安いし、一緒に店を始めたの。でもこの商売、彼の専門じゃないからね。看板の運搬や設置を担当しているわ。
あたしは兄の店にいたときにコンピューターの操作を覚えたから、今はデータを作ったり、営業をしたり。あとは8人のスタッフが、看板を作ったり、シートを切った文字を貼ったりしているわ。設備は2台のコンピューターと、プリンター、ファックス、それにシートを自動的にカットしてくれる大型と小型のカッター。全部、独立した時に中古で揃えたのよ。カッターは奮発してアメリカ製のを買った。中国製で安いのがあるんだけど、精度や耐久力を考えると、中国製はダメね。それ以外は設備にはたいしてお金もかかってないけど、でも資金が足りなくて、親戚や友人から借りたわ。いまじゃあすっかり返し終わったけどね。
そうやって始めた商売だけど、口コミでお客も増えてきた。たいていのお客は、自分でデザインを持ってくるから、うちはそれを仕上げればいいんだけど、なかにはデザインから頼まれることもある。あたしは、デザイン専門じゃないからね、これが辛いんだな。どうやったらきれいなのができるか分からないし、それに設置場所や設置方法のことも考えてデザインしなきゃいけないから、現場に行って、職人さんとよく打ち合わせる必要もあるのよ。
そうやって苦労して作ったモノが気に入ってもらえると本当に嬉しいけど、そう上手くいくことばかりじゃあないし。中にはなかなかお金を払ってくれない会社もあって、資金繰りにはいつも苦労が絶えないわ。支払いの悪い会社の仕事なんてしたくないんだけど、そういうところに限って定期的に大きな仕事をくれたりするから、コレがまた、悩みの種なのよ。 あとは時々ある、大きすぎるプロジェクト。資金もないし、スタッフも足りない。こういうのは泣く泣く兄の会社を紹介するしかないわね。
でもね、細かいことに手を抜かず、納期を守って仕事をすれば、少しずつ大きな仕事もできるようになると信じてるの。これから乾季になって、テトまでは新しい店が多く開店する時期だから、仕事はどんどん忙しくなるわ。夜も働く日が続くけど、でもこの仕事は気に入ってる。将来はもっと大きな店を構えて、支店も作ってと、夢は広がっていくわ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会・Cafe Siesta)
(2005年11月1日 火曜日 10:43JST更新) |