留守番
ホアビン省っていう、ハノイから車で1時間くらいのところで生まれたんだ。学校を出て、軍隊に行った。義務でね、3年間行くことになってるんだよ。除隊した後は家で農業をやってたんだけど、土地が狭いから作物がそうたくさんは穫れない。それに時間も余っちゃうんで、建設現場とか道路工事なんかの仕事に出るようになった。
でもね、そんな仕事はいつもある訳じゃないだろう? ハノイやディエンビエンフーの方まで出稼ぎに行ったけど、生活はなかなか安定しなかったんだ。そんな時、知り合いからダラットで留守番を探してる人がいるってきいて、やってみようかな、と思ったわけ。
ダラットには、ハノイやサイゴンに住んでる人の別荘が多い。でも人がいない期間が長いから物騒だろ。それに家ってのは住んでないと痛むし、掃除や庭の手入れも必要だ。留守番がいないと、たまに遊びに来ても掃除と草刈りで休日が終わっちゃうからね。それで近所の人や親戚に留守番を頼んだりする人が多いのさ。毎朝6時頃には起きて、午前中は家の掃除や庭の手入れをする。最初は掃除の仕方も知らなくて、いくらやってもきれいにならなかったけど、だんだん覚えるものさ。今ではずいぶん上達したよ。
庭の手入れは百姓仕事の延長だからお手のものさ。草を刈ったり花の手入れをしたりする。昼飯の後は働きに出てもいいことになってるから、建設現場なんかの手伝いに行く。最近は近所に花の梱包の仕事を見つけて、毎日そこで仕事をしてるんだ。酒はあんまり好きじゃないし、住まいは無料だし、生活にお金はかからないよ。だから留守番の給料は全部田舎に送って、花の収入で生活しているんだ。
ここは気候もいいし、空気もきれいだから気に入ってるけど、家族と離れて暮らすのはちょっと寂しいね。でも毎月定収入があるからね。そんな仕事はなかなか見つからないよ。本当は家族を呼んでみんなで暮らせればいいんだけど、そうなるとこの家にタダで住むわけには行かなくなる。まだそんな余裕はないから、もうしばらくはこのまま続けていくしかなさそうだね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2005年4月6日 水曜日 11:12更新) |