ヴァイオリン制作
父がハノイの大学でヴァイオリンを教えていたから、小さいときから弾いていたんだ。だけど父が亡くなって生活が苦しくなったんで、演奏以外にも何か手に職をつけようと考えて、有名なヴァイオリンの制作者に弟子入りしたのさ。
そこで2年ほど仕事をして基本を覚えて、ドンナイ省で独立した。そのころ南部では誰もヴァイオリンを作ってなかったから、結構いい商売になったんだ。
ハノイの先生が休暇で遊びに来るたびに、細かい技術を教わった。毎晩たっぷり飲ませてさ、少しずつ秘密も聞き出したんだ。 ヴァイオリンは上板、フェイスって言うんだが、その内側に1本の木が貼ってあって、その場所や長さ、形で音が違ってくる。サウンドホールの位置や大きさでも違ってくるし、フェイスと下板の間にサウンドポストという直径5mmくらいの木の柱が1本あって、これの場所でも違ってくる。これは固定されていないから、後から動かして音の調整ができるんだよ。それらが1mmでも違うと音が違っちゃうから、自分の目指す音が出る楽器を作るのは大変なのさ。
材料は世界中から買ってるよ。フェイスは主に松だけど、これはカナダやヨーロッパ、オーストラリアのを使う。2cmほどの厚さの板を自分で削って真ん中を4mm、端を2.5mmに仕上げるんだ。削るのには5種類のかんなを使う。市販されてるけど、ほとんどの制作者は自分専用のを作って使っているね。
指板や顎当ては黒檀。インドのが有名だけど、ベトナムのも悪くない。あと重要なのが駒と言って弦を高く支えてるパーツだね。これは楓材で、フランスの駒専門の会社から買っている。そうやって納得のいく材料やパーツを買い集めて、ここで加工、組み立てをするんだ。
ヴァイオリンで有名なのはストラディバリウス。だけどあれはヨーロッパの音楽向けだよ。日本の曲には日本のスズキ、ベトナムの曲にはオレのヴァイオリンが一番フィットするのさ。
2003年にはオーストラリアで開かれたヴァイオリン制作者国際会議に、アジアから唯一招待された。世界中の制作者と話ができて、すごく勉強になったよ。120人ほどの制作者の中で、演奏家兼務はオレ一人だけ。ずいぶん珍しがられたものさ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2005年3月16日 水曜日 16:00更新) |