絵刺繍職人
私はこの業界で30年ほど働いています。以前は輸出用の着物やTシャツに刺繍をする仕事をしていましたが、会社が事業を縮小したので、今の仕事に移りました。
刺繍は元々中国からベトナム北部に伝えられ、教会関係者が宗教用の刺繍として広めたのです。私はハノイから来た先生に3ヶ月ほど基礎を習った後、仕事をしながら技術を磨きました。最初は易しい花などで、上手くなってくるに従って難しいものを作ります。一番難しいのは写真が原画の人物の顔でしょう。写真を原画に使う刺繍のオーダーは、40×60cmのものでも2人がかりで6ヶ月は必要です。その分売り値も1000US$以上になりますが、そんなオーダーは少ないですね。
刺繍の工程は、まず専門の絵師がトレーシングペーパーに下絵を描き、それを布にトレースします。その絵に添って2人から5人くらいのチームで刺繍していきます。同じくらいの技量の人と組まないと上手くいかないんですよ。
原画があるものはそれを見ながら糸の色を選べますが、ないものは自分で色を考えて縫っていかなければなりません。糸は同じ緑でも濃いものから薄いものまで10種類くらいに分かれています。更にそれが微妙に違う色に分かれているので、全部で何種類あるのかわからないくらいたくさんあります。そんな中から最適な色を選ぶのが、この仕事で一番難しいところ。上手くなるには経験を積むしかありませんね。変な糸を選ぶと絵がチグハグになり、そんなときは全部やり直しですから大変です。反面、適した糸を選べると、きれいに仕上がります。そんなときは本当に嬉しくて、この仕事がますます好きになる瞬間ですね。
そうやって1日8時間、週6日間刺繍をします。最初の頃は目の疲れや肩こりに悩まされましたが、今では疲れることもなくなりました。給料は人によってそれぞれですが、1ヶ月80万ドン(約5630円)から150万ドン(約1万560円)くらい。それでも仕事があるのはありがたいし、それが好きなことならなおさらです。私はアートに興味があるので、この仕事が大好きです。ですから、これからもずっと続けていきたいと思っています。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2004年8月16日 8:07更新) |