路上床屋
毎日路上でちょっきんちょっきん、こうやって20年やってきた。そりゃあオレだって店を持ちたいよ。店なら扇風機もあるし、雨風もしのげるからね。客の入りも単価も違う。だけどそのためにはお金がいるだろ。何事も資金がないとできないのさ。
実は2年くらいPhu Nhuan区で店を持ってたことがあるんだ。だけど大家の都合で続けられなくなっちゃって、それからまたこうやって路上営業だ。見てごらん、コーヒー屋も麺屋もバイク修理屋もみんな路上営業だろう。ベトナムじゃあ当たり前の風景さ。
最初はファンティエットでね、1年ぐらい修行して、それから田舎でしばらく働いてたんだけど、家族みんなでホーチミン市に引っ越すことになった。こういう時、オレの商売は身軽なんだ。道具が一揃えあればどこでも営業できるからね。
だからこうやって家の近所で髪を刈ってるよ。1回5000ドン(約37円)。耳掃除をすると+5000ドンだ。屋根付きの店の2/3、町中と比べりゃあ半額以下だから、お客もそこそこ来てくれる。朝7時から日暮れまで働いて、平均収入は1日5万ドン(約365円)くらい。家で服の縫製をやってる女房の収入と合わせても、5人の子供を養うのがやっと。だけど、いまじゃあ3人独立したから、店のためにこつこつ貯金もできるようになった。
日除け、雨除けのパラソルや椅子は近くの家に置かせて貰ってる。バリカン用の電気は隣のお医者さんから引っ張ってる。お金を払うって言ってるんだけど、小さな額だからって受け取ってくれないんだよ。
大雨が降ったら休憩。疲れた日が休日。髪を刈ってる途中で雨が降って来ちゃったら、お客が濡れないようにしながら刈り切っちゃう。気楽な稼業だけど、そんなとき自分はずぶ濡れだね。 他人の店で働けば、そんな苦労もないんだけど、この業界、給料が安いんだ。今の収入並の所があれば、すぐにでも働くんだけど、そんな話は聞いたこともない。だから当分はこうやって路上で稼いで、将来小さな店が持てればそれでいいんだ。この仕事、身体が動く限りは続けられるんだからね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(2004年6月7日 9:18更新) |