ネムヌーン屋
ネムヌーンっていうのは、フエやニャチャン、トゥドゥックにもあって、それぞれ少しずつ違うけど、うちのはダラットスタイルってわけじゃないよ。母親の味そのままでね。いうなれば家伝の味ってヤツだね。
豚肉の赤身と脂も少し、朝、市場で仕入れて、すぐにミンチにする。それに家伝の香料を混ぜて練り、竹串に竹輪状につけて、炭火で焼く。火加減がまた難しいよ。だからあたしか娘にしか焼かせない。焼けたら2つ割にして串から外し、野菜や漬物、丸めて揚げたライスペーパーと一緒に、ライスペーパーでくるんで、秘伝のタレで食べるんだ。タレは豆ベースで甘いから、好みで唐辛子のペーストを入れると、ピリッと大人の味になるよ。
この味は全部母親譲りさ。だから店の名前は母の名前。母は昔、日本のダム建設会社で秘書をしていた。同じ現場で父も働いてた。あたしも林業関係の日本人の通訳をしてたことがあってね、うちは一家で日本贔屓だ。通訳ったって英語だよ、日本語はからっきしダメさ。1日数時間でフルタイムの給料を貰っていたからいい仕事だったけど、1974年でおしまいさ。
この店はまだ1年。妹が3年くらいやってたけどうまくいかなくて、引き継いだんだ。妹と違って、あたしは串はもちろんタレも全部自分で作るし、野菜を専用洗剤で洗ったりして衛生にも気を配っているから、1日200〜500食くらい売れるよ。妹は今じゃあ保険会社で仕事をしてる。上手くやってるようだから、店よりも合ってたんじゃないかな。
客はほとんど地元の人だけど、週末や休みの日には観光客も来る。外国人も欧米アジアを問わずたくさん来るよ。今はネムヌーンの専門店だけど、将来はチャーゾーやブンも出していきたい。でも娘達は違う仕事をしたがってるからね、いつまで続けられるか分からないねえ。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(ベトナムスケッチ2004年3月号) |