象使い
俺はダックラック省生まれのムノン族。中部高原では、荷運びは象と決まっていたんだ。だから俺たちだけじゃなくて、エデ族やザライ族も象を使うよ。ウチのオヤジは象を持ってなかった。でも俺が買って仕込んだんだ。象を持ってる奴のやり方をじっくり観察して、扱いを覚えたんだよ。
象は20歳くらいから子供を産む。3年も妊娠期間があって、産まれるのは1頭だけだから、大事に育てないと。産まれてから3歳頃まで訓練すれば、後は100歳くらいまで働いてくれるよ。メスの方が気が優しい。オスは牙を短くして使うね。
象の乗り方はね、首にまたがって足を耳の後ろに置く。足で耳を押して、命令を伝えるんだよ。ここらの象はほとんどが家畜として生まれる。なかには野生の象もいるけど、危なくて近寄れないよ。ムノン族やエデ族が象を使うといっても、みんなが象を持っている訳じゃない。だから人に頼まれると、1日10〜20万ドン(約700〜1400円)で、その人の畑に行って作物を運んだり、建築資材を運んだりする。
俺は今、観光地で働いている。
3年前に女房を亡くしてさ、子供達を女房の妹に預けて、単身赴任って訳だ。母親が死んだらその妹が子供の面倒を見るのはムノン族の習慣なのさ。
飼っていた象は7000万ドン(約48万円)で売れた。今使っているのは、俺が勤めている会社の象だよ。こいつにこうやって観光客を乗せて山道を散歩するんだ。お客といろんな話もできるし、この仕事は楽しいね。月給は50万ドン(約3500円)だけど、5時には仕事が終わるし、食事と宿は会社持ち。こんな山の中だと金を使う所もないよ。
今はムノン族やエデ族の象も減ってきた。将来、象はこういう観光地でしか見られなくなるかもしれないね。
文・構成=笹原亮(ジャアク商会)
(ベトナムスケッチ2004年1月号) |